「煎りたて 挽きたて 淹れたて」にこだわり65年

 ただ、3年前に新たに導入した機械は、煙突もしっかりしているし、デジタルで数字を表示したりできて、ちょっと近代的に変わった。「今は、全自動で焼き上げる焙煎機が多いのですが、当店は人の手で作ったものをお客様に提供したいので、基本的には、全自動は使いません。毎日少しずつ焼くんですよ。少量ずつ焼けるので、よりおいしく出せるかなと」。八戸さんは少し遠い目をした。「今の方が楽になりましたけど、昔は、プチプチと焼ける豆の声を聞いて、調整していたんですけどね」。そんな珈琲だから、うまいに決まっている。焼き加減、ハンドドリップなら、蒸らし方や注ぐお湯のスピードなどによって、出来上がりの味は全く違うものになる。均一の味を出すのは至難の業だが、そこはプロにしかできない、特殊技術である。

タングステンの優しい光が落ち着いた店内を照らしている

 八戸さんは高校を卒業した後、4年間、さまざまな経験を積みたいとの思いで、あらゆる場所で働いた。牧場で牛の世話をしたり、漁師に弟子入りしたりもした。カメラスタジオに勤めたこともある。「いろんな経験の中で、私に一番合っているのは、商売人なのかなって気がつきました。祖母に子供の頃にそう言われたことがありました。それを思い出したんです」。そして、地道に続いていた今の店を、腰を据えて珈琲店のオヤジとして生きていく決心をした。89(平成元)年のことだ。「父母の時代には、コーヒー文化を広めて行きたいというのが大きなテーマだったので、3タテをあらためてメインにやっていこうと思っています」天井が斜めになっているのは、上がホームに上がる階段になっているため、それに沿って作られた。一瞬だまし絵に引っかかったような錯覚に襲われる

 八戸さんは場所にもこだわった。「じいちゃんが(店を開くならここでと)決めた土地ですから」。少しだけ照れくさそうに言う。「お客様との思い出あるから、この場所を動くわけにはいかないということもあります」。多くの客がここを気に入っていることを八戸さんは肌で感じている。「多くのお客様が応援してくれるのが、店に立っていてわかります。感謝しかないですね」。その恩を返さなくてはならないと、八戸さんは、少し真剣なまなざしをこちらに向けた。「おいしいのは当たり前。この店の珈琲1杯で、すべての人を笑顔にするというのが、昔からの私たちの夢だったし、今でもそれは変わりません」

ストレートの豆が、雑然と並んでいる。「ティンカン」もいい雰囲気だ

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