「煎りたて 挽きたて 淹れたて」にこだわり65年

 それともう一つ、八戸さんは自分が育った神田という街を愛しているのも、店を続けていく理由の一つだ。新型コロナで亡くなったり店を閉める人が多い中で、昔の神田を知っている人がどんどん減っていってることも事実だ。「一つの時代が終わったのかなと思ったこともあります」。八戸さんは少しだけ寂しそうな表情を見せたが、気を取り直したように続けた。「そこではたと気がついたんです。先輩たちもだんだん少なくなっていきます。でも、これからの喫茶店文化は、私が娘(4代目・星莉南さん)世代につなげていかなくてはいけないんじゃないかなと思っています」。客の中には、「今日で僕は定年退職。ここの店のおかげで頑張ってこられた」と言ってくれた人もいた。「そういう話をしてくださると、この場所の空気や時間に思いがあるのが伝わってきます。歴史が培ってきたここにしかない時間、匂いは、その人たちが持っている大切な宝物なんです。やめられないですよね」

耐震工事のため、外観は新しくなっているが、店内の空気や
従業員たちの暖かさは、古い神田をほうふつとさせるのだ 

 神田駅を降りるとホッとするという八戸さん。「景色は変わったけど、安心できる場所なんです。僕の親の世代は神田生まれの神田育ち。神田の祭りが同窓会なんです。昔の話ができる店が減ってきている。街には独特の文化や匂いがある。それを守ってほしいという部分でもお客様からエールを贈られていると思っています」

コーヒー好きは、このポットを見た
 だけで、喉がなる。あー珈琲飲みたい

 しばらく時間をおいて、感慨深げに店内を見渡し、「いろんな人がいまだに来てくださるってことは、祖父母や父母が考えていた、『珈琲文化を広めていく』ことに成功したんだなと信じています」。八戸さんは誇らしげな表情で言った。

 供された珈琲の香りと苦味に年月の重さを感じた。

 

かんだこーひーえん かんだきたぐちてん
東京都千代田区鍛冶町2−13ー12
📞:03−3252−7608
営業時間:平日午前7時〜午後10時(LO
同9時45分)
土曜日午前8
時〜午後6時、日・祝日午前9時〜午後6時

文。今村博幸 撮影・JUN

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