鎌倉の中心でコーヒーと紫煙とレコードに酔う

レスポアール (神奈川・鎌倉)

retroism〜article51〜

 コーヒーの香りと紫煙がゆるやかな曲線を描く。喫茶店に似合うのは、そんな風景だし、ないと様にならない。「コーヒーを飲むと、たばこが吸いたくなりますよね」 。「レスポアール」のマスター飯島光男さんがそう言ってほほえんだ。今やどこへ行っても、たばこを吸う人間が後ろめたさを感じる中、愛煙家にとって、なんとも心強い喫茶店がレスポアールなのである。 使い込まれたサイフォンで、一杯ずつ入れられる香り高いコーヒーが、鎌倉観光で疲れた体を癒してくれる
 40年以上コーヒーを入れ続けてきた、マスターの腕は確かだ。サイフォンで一杯ずつ淹(い)れられるコーヒーは、苦みと酸みのバランスが絶妙で、きちんとコクもある。昔飲んだ味わい深いコーヒーを思い出させる。「サイフォンを使うのは、演出もあります。特に若い人は、珍しがってくれますよ」

「コーヒー専門店ですが、苦手な方もいらっしゃるので、オレンジジュースやクリームソーダも用意しました」と飯島さんは気遣いも忘れない

 もちろん演出だけではない。きちんとした技術は必要不可欠で、飯島さんはそれを持った正真正銘のプロである。飯島さんのコーヒーは、1杯分12グラムと豆の分量が少し多めだ。火をつけて、フラスコのお湯がロートへ上がったら、かくはんして抽出する。この混ぜ具合が味を左右する。火を止めた後は、フラスコの底をぬらしたダスター(ふきん)で撫でながら冷やし、抽出したコーヒーの落ちる速度を絶妙に調節する。そしてもう一つ大切なことがあると、飯島さんは言った。「おいしく点(た)てよう、おいしく点てようって思いながらサイフォンを扱います。するとコーヒーはおいしくなります。いい加減にやってるとやっぱりダメなんですよ」。昔懐かしいうまいコーヒーはこうして出来上がるのだ。

入り口には、大きな文字でレアチーズケーキの文字。店の信条もさりげなく貼られている

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