珈琲専門店 山百合(横浜・鶴見)
retroism〜article231〜
予期せず出合ったことが、人の心を捉えることがある。人生がそれによって変わっていくことさえもある。小さな喫茶店の中では、あらゆるドラマが生まれてきた。リラックスした客の表情が、店の居心地の良さを物語る
「一目惚れしちゃった感じでしたね」と慶野さんはほほえむ。約50年続いた横浜・鶴見にある喫茶店「珈琲専門店山百合」を現店主の慶野未来(みく)さんが継いだのは、2年半ほど前のことだった。さまざまな事情があり、後継者を探していた先代に会った。店内に入った瞬間に不思議な感情が湧き起こった。
サイホンは、天候によって味が変わるので、なるだけ均一になるよう
に注意を払って淹(い)れたコーヒーと手作り感たっぷりのプリン
「温かみのある店内、窓ガラスの周囲に施された木製の飾り、入り口とは別のドア(今はテーブルと椅子が置かれて開かないようになっている)の表面を飾る細工、落ち着いた壁紙など、全てが素敵だなって思いました」。あらゆる部分にこだわりが詰まっていると感じた。「50年も続いたこぢんまりして懐かしい、こんなにホッとできる場所」をなくしてしまいたくない。残したいという気持ちが込み上げた。もともと喫茶店が好きだったこともあり、知人にも「(先代に)会ってみたら?」と背中を押され、店を訪れた時に思わず「私に継がせてくださいって、返事をしてました」サイホンがカウンターの上に並ぶ。コーヒー好きなら思わずのどを鳴らすことだろう。基本的に豆は、注文が入るごとにひく