昭和の喫茶店文化「未来」に 歴史紡ぐ2代目店主

 ただ生きてるだけでいろんなものが入ってくる今の世の中は、知らず知らずのうちに人を疲れさせる。そうさせない、ただただ何にもしない場所、まるで、自分と空間が溶け込めるような場所は少なくなってしまった。「0歳から91歳まで、いろんな人が集まれる場所であることも、この場所のいいところだと思っています」

壁に取り付けられた照明も店内の雰囲気を盛り上げる。ヴィンテージのランプシェードが、ポイントだ

 安心して来られる場所であり、現代は、人との繋がりはどんどん減っているが、自己紹介などしなくても、今日の天気とか、取り繕う必要のないコミュニケーションの場として昔ながらの喫茶店は必要だと慶野さんは強調する。

 

カウンター内の慶野さん。小学校の先生からの喫茶店
のマスターへという面白い経歴の持ち主。笑顔が素敵だ 

 「私は平成生まれなので、物心つくところから便利でした。昭和は今よりはるかに不便なところもあったと聞いています。それなのに『昭和の文化』が好きなのは自分でも不思議です。懐かしいとさえ思えるのはなぜだろう思うことがあります。その理由を知るために店をやってるところもあります」

京急鶴見駅から路地を入ったところにポツンと建物があ
る。店名は壁にでっかく書かれているのでわかりやすい

 建物が歴史を物語っている。こういう空間はもう作れない。「『喫茶店は文化遺産』って言ってた人がいましたが、時代を遡っていけるんです」。慶野さんはさらに言葉を繋ぐ。「私は銭湯も好きなんですが、入っただけで、誰かと誰かがいろいろな話をしたり、お気に入りの場所があったり、湯船で足を伸ばしてリラックスしてる気持ちよさは、喫茶店に似ているかもしれないと思うことがあります」と慶野さんは笑う。

お気に入りコーヒーを飲み、好きな本を読む。喫茶店の正しい作法だ

 店内に備え付けられたラジオからは、いつかわからないが客が選局したTBSラジオの番組が静かに流れている。最近のしゃれた喫茶店なら、パソコンで鳴らされる音楽が多い。しかし、かつてはラジオの流れる喫茶店も多かった。「私自身はそんなにこだわりはありませんが、ラジオ自体、いろいろな情報が得られるので好きです。お客さんがたまたま合わせたこの局がずっとかかっています」

 慶野さんは穏やかな表情を浮かべ、サイホンで淹れたコーヒーをカップに注いだ。

こーひーせんもんてん やまゆり
横浜市鶴見区鶴見中央4−21−12
📞:045ー521ー0560
営業時間:午前11時〜午後7時
定休日:不定休

文・今村博幸 撮影・JUN