歌声喫茶ともしび(東京・高田馬場)
retroism〜article189〜
人間の発する声には、不思議な力がある。メロディーに歌詞が加われば底知れない力となり、合唱することで場の空気は特殊な世界へと変わっていく。そう実感できるのが、東京・高田馬場にある「歌声喫茶 ともしび」だ。客の後ろで、スタッフも一緒に盛り上げる。全員歌が上手だ
歌声喫茶は、自然発生的に生まれた。戦後の混乱が収まりきらない1954(昭和29)年、東京・西武新宿駅前にあった食堂で、たまたま店内に流れていたロシア民謡に合わせて学生たちの合唱が始まった。程なくして、新宿に登場した先駆け的な店「灯」が、歌声喫茶の大流行をけん引し、各地でさまざまな歌声喫茶がオープンした。この流れをくむ「株式会社ともしび」が73(同48)年に新宿店を開く。まるで、これから大国へと発展していく日本を予感しているような生き生きとした息吹が感じられたに違いない。歌声喫茶は、若者たちの心をわしづかみにし、国民的ブームを巻き起こす。音楽そのものに力があった頃だ。
(上)目をつむって曲に聞き入る。思い思いの聞き
方で楽しむ客たち(中)スタッフと一緒の身振り手
振りで歌う常連さん(下)女性の一人客も。でも、
決して寂しくはない。店には一体感と交流があるから