旧皇族の「アール・デコ」宮殿 次世代に価値継承

東京都庭園美術館本館(旧朝香宮邸、東京・白金台)

retroism〜article190〜

 どちらかと言えば、簡素に見える建物の正面玄関を入ると、目に飛び込んでくるのは、ガラス製の華やかなレリーフ扉。光が当たると、反射しして奇麗だ。

 「入った瞬間にきらびやかな印象を受けます。『旧朝香宮(あさかのみや)邸』を彩る重要なポイントです」と東京都庭園美術館の広報・学芸員の斉藤音夢さんは自信に満ちあふれた表情で言った。

(上)型押しガラス製法で製作されたレリーフ
扉。翼を広げた女性像が
印象的だ(下)細か
い天然石が敷き詰められた床。格調高い  

 扉はフランスで注目されていたガラス工芸家で建築用の造作までを手掛けていたルネ・ラリックの作で、この邸宅のために作られた一点物のオリジナルである。現在は開かないようになっているが、それには理由があった。斉藤さんが、笑顔でエピソードを披露する。「ある時、朝香宮のご家族が帰宅した際に、強く扉を閉めて亀裂が入ってしまったんです。幸い美術館となってから、予備のレリーフと交換し、現在、亀裂は右側1カ所となっています」。しかし、当時それを知ったあるじの鳩彦(やすひこ)王が激怒。日常生活では扉を開けられないようにしてしまったのだという。皇室といえども人間くさいところがあったのだ。第一階段。当時は皇族のみが使用できた。壁面は、最高級の大理石が使われている