旧皇族の「アール・デコ」宮殿 次世代に価値継承

 そもそも予備のための扉がフランスから送られてきていたが、いつの間にかどこかへ流失していた。最終的に、北海道拓殖銀行が持っていることがわかり、同銀行が経営破綻する直前に、持ってるものを処分した。その時に買い戻した。紛失したのも、戻ってきたのも、何か運命的なものを感じる。ドアの取手などは、昔のまま。「私たちも触って動かしているので壊れないように注意しています」と斉藤さん

 旧朝香宮邸が建てられたのは、1933(昭和8)年のことである。陸軍中佐だった鳩彦王が、22(大正11)年からフランスに滞在することになった。しかし現地で交通事故に遭い足に大けがを負う。妃である允子(のぶこ)内親王が看病のために渡仏し、朝香宮夫妻はフランスに長期滞在することになる。そこで25(同14)年にアール・デコ博覧会を見学し、心を惹(ひ)かれた夫妻が主張して、自分の邸宅に取り入れたのが旧朝香宮邸の原点である。アール・デコは1920~30年代にかけ欧米を中心に大流行した装飾様式で、直線や幾何学をモチーフとした表現が特徴だ。同邸宅のデザインを手掛けたのは、同様式を猛烈に勉強した建築のエリート集団である宮内省内匠寮の面々と、フランス人作家たちだった。だから、純粋なアール・デコ様式を取り入れながら、日本の思想も注入された様式を見られるのもここの特徴だ。

第一階段を登ったところにある柱型の照
明。こちらもやはりアール・デコ様式だ

 フランスに滞在されていた時に繋がりを持った作家たちに声をかけたらしい。内親王は特に熱心で、やりとりした書簡が証拠として残っている。したがって、邸内の作りは、ほぼ本場のアール・デコ様式が取り入れられ、インテリアも同様式のものが飾られている。


大理石で作られた洗面所。お湯も出るようになっている