歌謡曲カフェ Lover’s(東京・鶯谷)
retroism〜article99〜
かつて身を置いた時代に自分を戻してくれる空間はそう多くはない。しかも、「ほんの一瞬で」となればなおさらだ。
ミラーボールの光を浴びて踊る女性客は、一枚の古い写真の中にいるように見える
懐かしいレコードのジャケットなどが飾られた細い階段を下りて店内へと足を踏み入れる。ディスコ全盛期を思わせる、低音の効いた「ドンシャリ」の音が「歌謡曲カフェ Lover’s」の店内に響きわたっていた。
かかる曲は、融通無碍(ゆうずうむげ)だ。店主でDJも担当する北島慶一さんのセンスで決まる。「例えば、洋楽のド定番でみんなが踊り始めます。様子を見ながら徐々に和モノを入れたりして、最後にはみんなで歌うなんていうパターンもわりとありますよ」。土曜日は、ツンとしたおすましな感じのジョージ・ベンソンなどのクロスオーバーがかかる。しかし、最後の締めが東京音頭だったりするところが、Lover’sの真骨頂である。
ピンクレディのファーストアルバムなど、壁には懐かしいレコードのジャケットがたくさん貼られている
「『スナックディスコ』と呼んでいます。簡単に言えば、飲んで歌って踊って、そんなシンプルな店と思っていただければ」。スナックと呼ぶには広いダンスフロアを備えた店内にはミラーボールが回り、重量感のあるサウンドが聴く者の背筋をしびれさせる。流れる音楽にかぶせて歌ったり、合間に突拍子もない曲が突然流れることもある。「合間の曲が重要で、演歌をかけると、店の雰囲気が一気に艶っぽくなったりします。そこが面白い。まあ、言ってみればハチャメチャなんですが、昭和ってそういう時代だったし、いいところだと思っています」
黒人歌手の大きなフィギュアが階段で出迎える