刺さる歌詞とメロディー 昭和歌謡に酔いしれた夜

コラム其ノ拾参(特別編)

 

retroism〜article208〜

 「歳を重ねて、クラシックやジャズのファンになって、そればかり聴いている人だって、『若い頃は、歌謡曲を聴いていたでしょう。わりと好きだったでしょう』と言いたいんです」

 東京・新宿にある「ユニオンレコード昭和歌謡館」の杉本博士店長(当時)のこんな言葉を思い出した。AB面計2曲しか入っていないシングル盤を作るのに、当時のミュージシャンたちは全身全霊を傾けた。だから、所有する喜びを満たしてくれるのだ

 昭和の歌謡曲ばかりがかかる居酒屋で、友人と飲んでいた時だった。次から次に、懐かしい曲が店内を満たしていく。友人は言った。「さっきからかかっているの、子供の頃から10代にかけて聴いたことある曲ばっかりだよね。全部知ってる」。それが2人の会話を弾ませた。

 昭和に作られた楽曲は、メロディーが新鮮だったし、歌詞にも刺さるものがあった。子供の頃、歌詞の意味も分からずに聴いていたが、そんな幼い心にすら、不思議なくらいインパクトを与え続けたことは、歳を重ねるごとに、身に染みてくることを知ることになる。