昭和歌謡と懐かしグッズを肴に一杯飲る

代々木ミルクホール本店(東京・代々木)

retroism〜article133〜
 

 「洒落(しゃれ)ている」という表現は奥が深い。格好がいいとか、垢抜けているとか、魅力的だという意味でも使われる。東京都渋谷区にある「代々木ミルクホール本店」は、まさに「洒落た」居酒屋と言えるだろう。いたる所に、昭和を匂わせるモノや仕掛けが施されていてゾクゾクするほど楽しい酒場なのだ。

にぎやかな店内は、雑然としながらも落ち着いて飲める雰囲気が魅力だ

 入り口の引き戸を開けると、正面に鎮座するのがジュークボックスだ。「当時のアイドルの『デビュー曲』が入っています」と説明するのは店長の富永沙里さん。ヒット曲じゃなくデビュー曲というのがミソだ。しかも、メニューと一緒にそのリストまで用意されていて、眺めているだけでも面白い。デビュー曲とヒット曲は、必ずしも一緒ではない。そのことを再び思い起こさせてくれ、新鮮な気持ちになる。例えば、松田聖子といえば、初期のヒット曲は「青い珊瑚礁(さんごしょう)」や「風は秋色」などを思い浮かべる人も多いと思うが、デビュー曲は「裸足の季節」である。逆にいえば、当時のデビュー曲を改めて確認できるのだ。

入り口付近のジュークボックス。店内
のスピーカーにつながっており、客が
曲を流すと自動的に音楽が切り替わる

 中に入ると、U字型のカウンターを囲む壁一面には、アイドルのシングル盤が整然と並ぶ。「目線のいきそうな高さには、有名どころが並んでいますが、基本的にはランダムです」。この情景は圧巻である。しかもジャケットだけでなく盤自体も入っているというところに、経営者の本気度がうかがえる。

裸のレコード盤をつるすという見せ方にインパクトがある

 店の電話番号の後半が「6700」というのもニクい。読み方は「シックス・セブン・オー・オー」。「ハロー、ダーリン」という妙子の声から始まる、あのフィンガー5の名曲「恋のダイヤル6700」をさりげなく忍び込ませてあるのだ。カウンターの一番奥と途中の角に設置された2台のテレビからは、「8時だョ!全員集合」「鉄腕アトム」「ど根性ガエル」など、昭和を代表する映像が次々に流れる。それらを肴(さかな)に一杯飲(や)るのも悪くない。

1980年代後半に盛んに発売されたシングル盤のカセットテープ。まだセロファンが被っているように見える

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