昭和風情と下町情緒残る空間でクラフトビールを

谷中ビアホール(東京・谷中)

retroism〜article160〜

 古い木造家屋が建ち並ぶ東京・谷中地区だが、最近は、新しい住宅も増えてきた。時代といえばそれまでだが、地域の特色が薄れてしまうようで少しさびしい。

着物姿でビールを注ぐその所作は、テキパキとして気持ちがいい。女将・吉田さんの笑顔が素敵!

 そんな中、谷中霊園の脇に、1938(昭和13)年に建てられた三軒家が残っている。いかにも昭和といった風情で味のある建物だ。この三軒家を改装した複合商業施設「上野桜木あたり」の一画に「谷中ビアホール」はある。いささか古びた引き戸を開けて、取材に来たことを告げると、着物姿の代表取締役・吉田瞳さんは、背筋を伸ばし品よく頭を下げながら、「女将(おかみ)の吉田と申します」と笑顔で応えた。

「谷中生姜(しょうが)と竹輪(ちくわ)の
  柚子(ゆず)ソース」(左)、「焼きバター
 枝豆」は、アウグスビールと相性抜群だ

 オープンは2015(平成27)年3月14日。「開店した当時は、他にも多少古民家が残っていましたが、ここ7年の間にこの一画だけになってしまいました。元々映画のセットのようだなって、(私は)思っていましたが、周りの変化で、ますます目立ちゃって。ある意味、うれしいことですけどね」。路地を入って目に飛び込んでくる、昭和然とした建物は、歴史の重みを湛(たた)え、迫力さえ感じさせる。

 八十余年の歳月が積み重なった建物を改装した入り口。そよ
風に揺れる風鈴、のれんもゆらゆらとはためく。涼しげだ

   「住民の方々でも、『残すべきだ』『解体したほうがいい』と意見が真っ二つに分かれたそうです。でも、結局残すことになりました。東京芸術大学教授の意見が決め手になりました」。サーバーからビールを丁寧に注ぎながら、吉田さんがほほえむ。「東京のど真ん中なのに、のどかな印象がある。漂うのんびりした空気は、私も気に入っているところです」

アウグスビールテイスティングセット。どれも味が個性的なので、その違いがはっきりと分かる