思い出は自転車とともに「世界に一台」を自分で

レトロサイクル(千葉・松戸)

retroism〜article159〜

 「僕は、店の中から見るこの風景が大好きなんです。静かだけど、なんとなくみんなが楽しそうに見えませんか?」

 オーナーである髙田ユキヲさんが優しい目で店の奥から外を見つめる。店の前では、ブルーシートに座って、3人の客が、部品を磨く作業をしていた。自転車を組み上げていく前の大切な工程だ。

右の男性と中央の女性はパーツ磨きデート中。まるでピクニックのようだ

 自転車のデッドストックパーツは日本中に置き去りにされている。それらと、安全性に関わる部分である、ベアリング類、タイヤ、ブレーキシュー、ワイヤ類などの新品パーツを組み合わせて「世界にただ一台」のヴィンテージ自転車をオーダーメードできるのが千葉・松戸にある「レトロサイクル」だ。普通の自転車屋と違うのは、購入者自身が髙田さんと一緒になって作り上げていくことだ。

 手間がかかったり、力が要る作業だと客同士が互いに手伝うこともよくある。店内では、カステラであんこを挟んだ菓子「シベリヤ」やそれを凍らせたツンドラなども売られている。作業している仲間として、年上の客が「ツンドラごちそうしてやるよ」などと声を掛ける。そんなふうにして、「自転車を組みあげる仲間」としての関係性が客同士の間で出来上がっていくのも、髙田さんにとってはよろこびであり狙いの一つだ。「他の店ではまずない光景だと思いますよ」

シンプルな入り口。バラック感に心惹(ひ)かれる。この手前で組み立てや研磨などの作業が行われる

 最近購入を決めた大学院生の栃倉優人さんは、充実感のある笑顔で説明する。「個性的で昔っぽい自転車が欲しくて探していました。家の近くだった髙田さんに相談すると、予算が足りなかったのですが、命に関わる部分以外の部品は、髙田さんが譲ってくれるって言ってくださったので、自分でやってみようと思って」。もちろん、「自分で」と言っても、安全性の観点から、摺(しょう)動部(軸と軸受け部など擦れながら滑り合う部分)の研磨、0.1㍉単位の部品加工などは細心の注意を払いながら、髙田さんが手を加える。結果、普通のロードバイクよりよく走るのが、レトロサイクルの自転車の最大の特徴である。工房内の天井には、リムやタイヤがいくつもぶら下がっている。これらのパーツも誰かのメモリーとなる日を待っているかのようだ

 「作業をしていてわからないことがあると、髙田さんに声をかけて、『次これやっといて』などと指示をしてもらいます。安心感がありますよね」。ただ、栃倉さんの場合は偶然余った部品などがあったため低予算で組み上げられ、ある意味ラッキーだったとも言える。栃倉さんのように髙田さんは客といろいろ話をして、人間関係がきちんと構築されると、柔軟に対応するのが彼のポリシーである。あくまで信頼と人としてのつながりを重視するというスタンスを大切にしているのだ。

  日本における、自転車のルーツとも言える2台。
右は商業用、左がいわゆるママチャリの原点だ 

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