歴史刻むクラシックホテルで建築美に高揚する

ホテルニューグランド(横浜・山下町)  

retroism〜article157〜

 旧約聖書に登場する天使ラファエルが、大きな魚を抱えてパティオ(中庭)の噴水の上で旅人を癒やしている。

 横浜・山下町にある「ホテルニューグランド」の本館に寄り添うように1991年(平成3年)にタワー館が造られ、ヨーロッパから輸入した噴水を中央に配したパティオがお目見えした。「ここは、公開空地ですので、ホテルご利用のお客様でなくても入れます。夜になるとライトアップされてキラキラと奇麗ですよ」。営業企画部の横山ひとみさんが笑顔で説明した。

ホテルニューグランドのシンボル的存在・大
           階段。開業当時はここを上がってフロントへ   

 ホテルニューグランドは、27年(昭和2年)に開業した。95年という長い歴史に裏打ちされた「建築の美」が詰まっている魅力的なホテルである。まず、新旧の建物が隣り合っているところが面白い。18階建てのタワー館を建てたとき、歴史ある本館も残している。いっそのこと、全部取り壊して新しくするという考え方もあるのでは?と質問してみた。「そうしなかった経営判断に、私は深く敬意を表したいと思います」と横山さんはキッパリと言い放った。「美術などに造詣が深い実業家の原三溪(富太郎)をはじめ、原家がホテルの会長を継承しております。そういう一族が経営に参加しているというのも、古い本館が残った理由の一つでもあると思っています。壊してしまったら、もう二度と造れないですからね」

イベント的に特別レストランとして開放されるフェニ
ックスルームは、幻のレストランとも呼ばれている 

 ホテルニューグランド建設の意味は大きかった。23(大正12)年に起きた関東大震災でがれきの山となった横浜の復興のシンボルとして建てられたからである。焦土と化した港町・横浜を再興させたいと言う多くの人の思いがこもっていた。横浜市、政財界、市民が一体となり、身銭を切って開業したのである。開業時に、名前を公募したが、なかなか決まらなかった。候補の一つがフェニックスホテルだった。採用はされなかったが、ロゴとホールの名前に残っている。

(上)レインボーボールルーム手前のロビーに並ぶ椅子は高価なものも(下)椅子の肘掛けには、職人技の精緻な彫刻が施されてい