歴史刻むクラシックホテルで建築美に高揚する

 2階には、二つのパーティールームが昔の姿をとどめている。階段を上がりロビー部分には、かつて美しいイタリア製の亀甲タイルが規則正しく敷き詰められていた(現在はじゅうたん)。そこから左手にあるのがかつてメインダイニングとして使われていた「フェニックスルーム」だ。宴会などがない時には、月に数回、臨時のレストランになる。「こちらは、和の要素が多いと思います。天井は(木を格子状に組んだ)格天井ですし、まるで城郭のような造りです」。かつてはここで和服姿のスタッフが給仕をしていたという。もともと外国人専用のホテルとして建築されたことを考えると、渡辺氏の『外国人をお迎えした時に日本を感じてほしい』という意図があったと推測される。本館2階のレインボーボールルーム前にあるロビーの柱には、琵琶を抱えた弁天の彫り物。なぜここに入れたのかはわからないが、違和感がないのが、渡辺氏のセンスだろう

 一方、階段から右手に進むとレインボーボールルーム(宴会場)である。ホテルの開業パーティーが開催された場所だ。その後は、当時少なかったホテルウエディングに今も使われ、コロナ禍以前には、ダンスパーティーなども行われていた。特徴は、少しアールがついた天井にある漆喰(しっくい)細工。当時の職人による最高傑作との呼び声も高い。

開業当時使われていた新聞ラック。ここからお気に入りの新聞を取り出してリラックスした朝を過ごす(現在は室内装飾)

 ボールルーム自体もさることながら、その前に広がるロビーは一見の価値のあるスペースである。5㍍という高さのある天井に合わせたような大きな窓。大正ガラスを使った窓は当時のまま。背が高めのイチョウの木の向こうには、海が見える。階段を上がった場所で、利用客に旅情を感じてもらいたいという渡辺氏のこだわりだ。レインボーボールルームの注目はアールを描いた天井。漆喰はまさに職人技。思わず見惚れて、ちょっとだけ首が痛くなる