歴史刻むクラシックホテルで建築美に高揚する

 並ぶ椅子やテーブルはいわゆる横浜家具である。元町の三光家具製作所(大正12年開業〜昭和45年閉鎖)が作った。開港からすでに半世紀が経とうとしていた。元町に多くの外国人が暮らすようになり、彼らが持ち込んだ西洋のテーブルやクローゼット、椅子などが持ち込まれ、日本の職人がまねて作ったものである。客室に備えてあったテーブルと椅子が2セット。他にも勝利の女神ニケの彫刻が施された椅子など、豪華さと開放感にゆったりと浸れる空間である。「ファブリックの部分は、張り替えをすることで、大切に使い続けるようにしています。土台となる木の部分は、磨きをかけて丁寧な手入れを欠かしません」。本館2階のロビー全体を眺めながら横山さんは目を輝かせる。「私はこのロビーが大好きです。ぜひ泊まっていただいて、時間の変化を体験してほしいですね」

 外から2階のロビーの窓を眺める。歴史を感じさせる重厚さだ

 外を改めて眺めながら横山さんが続ける。「横浜は海から朝日が昇る街です。朝のロビーの空気感は爽やかですし、トーンの落ちたこのロビーは、夜になるとすごくロマンチックですよ」。刻々と変わる、時間と歴史の重みをホテルニューグランドに泊まることで体験できるのだ。「例えば博物館だったら、作品を展示してお客さまに見ていただけばいい。でも私どもはホテルなので、古いものを使いながらお客さまにホテルでの時間ををどう楽しんでもらうかも考える必要があります。それは決してやさしいことではありません。私どもの先代が残してくれた『遺産』を、見せるだけではなく、ホテルの魅力のひとつとして、歴史的な部分を効果的にプロモーションしていく作業はスタッフとしてのやりがいの一つでもあります」

赤い庇(ひさし)は「ザ・カフェ」のある部分。発祥のプリン・ア・ラ・モードやナポリタンなども食べられる。角の上から2番目の部屋は「マッカーサーズスイート」

 窓の外では、イチョウの緑が風に揺れていた。横山さんは大きな夢を語ってくれた。「お客さまにとって身近な存在でありながら、代わりの効かない存在になりたいですね。横浜の復興と共に、ホテル営業の歴史が積み重なっています。横浜の唯一のクラシックホテルとして、全国の人が横浜に来る目的の一つがホテルニューグランドを訪れることになってほしいと願っています」

 ホテルニューグランドが重ねてきた年月は、横浜の歴史の一部でもある。

ほてるにゅーぐらんど
横浜市中区山下町10番地
📞:045-681-1841(代表)
https://www.hotel-newgrand.co.jp/

文・今村博幸 撮影・JUN