パリー食堂(埼玉・秩父)
retroism〜article1〜
見上げると思わず息を飲む外観だ。モルタル塗りの壁面に金色で大きく書かれた「パリー」の文字が燦然(さんぜん)と輝いている。屋根部分をよく見るとコーニス(洋風建築の軒・壁の頂部と下部とを区切るための帯状の装飾)を巡らせ、その下にはエッグアンドダーツ(卵と矢じりのパターンを交互に刻んだデザイン)の文様が控えめだがくっきりと描かれている。いわゆる近代商店建築を今に伝える貴重な建物なのだ。国の登録有形文化財にも指定されている。
威風堂々とした店構えを前にすると、名状しがたい
思いに駆られるのは、店の長い歴史のなせる技か?
さらに、右から読む暖簾(のれん)が外観にマッチしている。ショーウインドーに並ぶのは、昔ながらの食品見本。否応なしに心惹(ひ)かれ、目を凝らさずにはいられない。ガラガラと引き戸を開けると、かつての食堂の定番である簡素な作りのパイプテーブルと木製の椅子が整然と置かれている。丸いプラスチックのトレーにはソースと塩、つまようじが買ってきたままの姿で並ぶ。なぜかしょうゆだけが自前の容器に移し替えられていた。出窓には、子供が書いた絵、駄菓子屋にあったような大きくて丸いガラス瓶の中には、どこから来たのか分からないマッチ棒が、びっしりと入っている。