「スローなエレベーター」がいざなう優雅なひと時

高島屋日本橋店(東京・日本橋)

retroism〜article138〜

 ネット通販の台頭によって、買い物の楽しみ方は様変わりしつつある。かつては人と対面するのが当たり前だった。特に百貨店は、店員とのコミュニケーションの中でいろいろと相談や雑談をして、求める商品を探し、迷いながら購入する醍醐味(だいごみ)があった。客もおめかしをして訪れた。それは今も変わらない。買い物好きのご仁にとっては、最も幸せな時間のひとつだ。

2階まで吹き抜けになった広い中央階段は、優
 美という言葉がよく似合う。「百貨店に買い物
に来た」という気持ちを盛り上げてくれる  

 1933(昭和8)年に完成した「高島屋日本橋店」には、贅(ぜい)の限りを尽くした絢爛(けんらん)豪華な雰囲気が満ちている。近代的なビルが建ち並ぶ中で、山口県産など、すでに採れなくなった大理石やイタリア産の石などをぜいたくに使った外観や内観。加えて変わることのない個性的な意匠が、客を惹(ひ)きつけてやまない。また、当時、珍しかった冷暖房を完備し、快適で質の高い百貨店を目指した。これからの日本の流通業界をけん引しようとする気概が見て取れる。その精神を現在に至るまで貫いているのも敬意を表するところだ。「東京で暑いところ、高島屋を出たところ」という当時のキャッチコピーにも見事に表れていると言っていいだろう。

正面玄関にある鉄製の扉。災害時
には被害を防ぐ防火壁にもなる

 建物および意匠は、高橋貞太郎と村野藤吾の2人の建築家の力を結集して完成した昭和建築の傑作の一つだ。正確には、設計図案協議で選ばれた高橋氏が建て、彼の意志を遺憾なく踏襲した村野氏によって増築が施され今に至っている。しかし、どこを見渡しても違和感が全くないところは、彼らの類まれなる才能と技量によるものだ。荘厳かつ華麗な建造物は、2009年に、百貨店建築では初めてとなる重要文化財に指定された。

正面玄関の両脇に備えられた水飲み場跡。か
つては水が出ていて、通りがかりの小学生た
ちが水を飲んだり手を洗ったりしていた  

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