「スローなエレベーター」がいざなう優雅なひと時

 建築に当たって出された命題は「東洋趣味ヲ基調トスル現代建築」。つまり、文明開化以来日本に入ってきた西洋の趣と日本の様式美の融合が要求された。それに応えたのが、2人の建築家だったのである。世界史に残る数々の様式とは明らかに違う、高橋貞太郎様式というべき形を生み出した功績は偉大だ。さらに、驚かされるのは、当時の建物や意匠がほとんど変わらずに残されていることである。「愛着をもって建物として大切に使ってきたからこそだと思っています」。案内役の総務グループ・鈴木淳子さんが微笑(ほほ)えむ。

西洋を思わせる外観は、村野藤吾が日本の美意識を取り入れたオリジナルだ

 まず、目を見張るのは、正面から入ると広がる中央階段だ。大理石の柱と腰板に縁取られた地下と1階を繋ぐ。2階まで吹き抜けになっており、来店客はぜいたくな気分を味わえる。「ここは、お客さまを迎える、百貨店にとって最も大切な場所でもあります」。見上げると、大理石の太い柱の上は、肘(ひじ)木風のしつらえで雷紋や植物の装飾も見事だ。白い格(ごう)天井に1000を超える花のような石こうの飾り(ロゼッタ)が散りばめられている。「これも創建時のままです。ただ、安全面を考慮して4年前に補強しました」。補強の仕方も念が入っている。「一つひとつ丁寧に取り外して、強度を確かめ同じ位置に戻して、アンカーで打ち直しました。全て手作業で行われました」

書体が昭和なトイレのサイン。スカートが広が
っているピクトグラムは、高島屋オリジナルだ

 ロゼッタ同様、大部分が創建当時のままなのが素晴らしい。形あるものはいつか壊れるし、すでになくなってしまったものも少なくない。しかし、高島屋日本橋店に関しては、使われている大理石や天井材など、当時のものが大切に保存されているのだ。「ただ、2階の回廊の腰板はもともと真ちゅう製でした。太平洋戦争時の金属回収令で供出され、今は木製になってます。シャンデリアも同様に出してしまったので、今ついている照明は村野藤吾がつけたものです」

高島屋のマスコット・ローズちゃんが
客を迎える。季節によって衣替えも

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