カブトムシ一筋45年 オーナーに安心届け続け

FLAT4(横浜・本牧)
       =前編 

retroism〜article137〜

 セマフォー(アポロ式方向指示器)が「ガチャコンッ」という音と共に飛び出す様は、車が「機械」であることを、改めて感じさせる。搭載していたのは、古いフォルクスワーゲン・タイプ1(以下VW)である。1938(昭和13)年にドイツで生産が開始された小型大衆車で、愛称はドイツ国内では「ケーファー」、英語圏では「ビートル」と呼ばれた。日本ではカブトムシだ。愛称にしても、あまりにもひねりのない直訳が、今となってはほほ笑ましい。


貴重なオリジナルパーツを装備した1952年製。レストアはパーフェクト
 横浜・本牧にある「FLAT4」は、1976(昭和51)年10月に創業した50〜70年代製VWの専門店である。フードが幅広になり顔つきが変わった通称マルニ、ストラット(式サスペンション)モデル「1302S」に乗り始め、VWの魔性に心酔していった小森隆氏(現相談役ファウンダー)が起こした。

  VWの最大の特徴は、RR(リアエンジン、後輪駆動)で、空冷式であるフラットフォー(水平対向4気筒)を積んでいるところだ。今の車は、ほとんどがFF(フロントエンジン、前輪駆動)で水冷と真逆である。もちろんFFの優位性はたくさんあるが、RRエンジンの利点は、大きく三つある。

1955年製の車内。内装からは積み上げてきた歴史の一端が垣間見える

 まずは高い運動性能だ。後ろにエンジンを載せることでいわゆるリアヘビーになり、けり出しが良く、加速がいい。次に、同じ理由で少しのハンドル操作で大きく動けるので、コーナーリングもしやすい。加えて、ブレーキを踏んだ時に、後ろが浮き上がらずにピタッと地面に吸い付くように止まることができる。これらは、VWがドラッグレースなどで活躍した理由の一つでもある。つい20年前まで、大きな変化をせずに作り続けていたフォルクスワーゲン社に対しては敬意しかない。

車の後ろにあるエンジンルーム。完璧な整備がFLAT4の信条だ