石塚硝子ハウスウェアカンパニー(愛知・岩倉)
retroism〜article136〜
いつの時代も、花は愛され続ける。時に心を和ませ、躍らせてくれるのだ。この世からなくなることなど想像できない。世の中が荒廃したとしても救いになってくれるはずだ。それほど我々にとって、なくてはならない存在と言っても過言ではないだろう。
アデリアの定番グラスの復刻版。色遣いが巧みでつい手に取ってしまう。商品名も素朴で艶やかだ。左から「花まわし」「野ばな」「アリス」
人々の暮らしが豊かになりはじめた1950年代後半、各家庭の中に花柄があふれた時代がある。ブームの到来である。特に家族が集まるキッチン周辺には、ポットや炊飯器、鍋に至るまで、カラフルな花がプリントされた道具がテーブルを飾るようになった。洋食器もごく当たり前に使われ61(昭和36)年にガラス製のコップが世に出回った。石塚硝子が世に送り出したブランド「アデリア」だった。石塚硝子(がらす)ハウスウェアカンパニー市販部販促マーケティンググループの川島健太郎さんがゆっくりと話しはじめた。「キッチンウエアの中でも、その流れに乗る形で生み出されたのが、花柄プリントされたグラスやガラス製の容器でした」。面白いのは、ブランド名がNHKの番組で公募して決められたというところだ。由来は、諸説あるらしいが、「聞き伝えなので不確かではありますが」と前置きをした上で、「一つは、アドリア海から、または「艶(あで)やか」からの造語とも言われています」。いずれにしても、美しい彩りを想起させる。言葉の響きも奇麗だ。
昭和当時のアデリアの説明書。色が少しすすけているのが歴史を感じさせる
確かに当時、この花柄コップは親戚や友人の家に行くと、必ずと言っていいほど置いてあったのを覚えている。理由のひとつが、大量生産大量消費という時代背景にある。「弊社も、いわゆるマシンメード、大量生産の会社です。大量に作ってたくさん売るという大前提があります」。実際に、昭和50年代の初頭まで、かなりの数の花柄コップが売れた。さらに昭和30年代中盤は、単一商品がたくさん売れるという時代でもあった。「昭和30年代から使われていたアデリアが、アンティークショップなどに並んでいるのは、それくらいたくさん世の中に出回った証拠でもあります。今とは桁違いに売れていたと考えられます」。川島さんが笑顔を見せた。
縦の線が特徴のグラスは、いまでも喫茶店などでもよく見かけ、とても身近に感じる