昔懐かしい花柄コップ 老若男女のハートにグサリ

 やがて時代は移り、さまざまなグラスが登場する。石塚硝子としても、その時代に合わせながら、アデリアブランドも成長していった。そして、数年前に「事件」が起こる。20代の女性社員たちが昔のアデリア製品がネットにたくさんアップされていることに気が付いたのだ。彼女らは、自信満々で企画を出した。「若い女性目線で見ても新鮮でかわいいと。『今これを復刻させたら皆さんに喜ばれるに違いない』と言うんです」。川島さんら昭和世代の社員たちは、最初はピンと来なかったという。「懐かしいというのはありましたが、可愛らしいとか新鮮とは捉えられませんでした」。数年前から古いモノを見直す機運が、若者を中心に世に流れはじめていた。「それに気がついたのも、若い女子社員でした」

昭和に作られたアデリア。ポップな「レトロ」
シリーズと対照的に落ち着いた絵柄もあった 

 こうして昭和のアデリアを復刻させるプロジェクトが始まった。マシンメードの会社であるはずの石塚硝子が、手作業で昔の花柄アデリアを作ることになったのである。「ガラス自体は当時のものが残ってないので、今あるものの中から、似た形を使いました。そういう意味では全く同じというわけではありませんが、雰囲気を含めて極力再現するように注意が払われました」。昭和期のプリントデザインの原版は、当然デジタルデータではなく、残ってなかった。「仕方がないので、まず、オリジナルを持っている人をネット上で探しました。連絡を取らせていただいて当時の現物をお借りし、そこからトレーシングペーパーでなぞって柄を起こし、今回の復刻版を作りました」

梅酒を漬ける容器は石塚硝子のオリジナル。今でもしっかりと健在だ

 もう一つこだわったことがあった。「当時のプリント技術は、まだ稚拙で、多色刷りの印刷機にかけると、版がズレるんです。それに気が付いたのも若い社員で、このズレをあえて残したいということになりました。今の技術でプリントをすると、正確すぎてズレないんですね」。こうしたこだわりが、かつての「花柄のコップ」を再生させ、かつて存在した素朴だが明るく、古いはずなのに新鮮な「アデリアレトロ」が完成した。発売後丸3年で64万個を売り上げるヒット商品となった。「ガラス食器としては単価が700円から1500円ぐらいと少し高めの商品にかかわらず、この数はちょっと珍しいと言っていいでしょう」

涼しげな盃(さかずき)。底が曲面になっておりユラユラと揺れ、津軽びいどろの豊かな色彩も楽しめる

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