200本目の記事リリースにあたって

パソコンもスマホもない…ファクスや郵送で

 「牛乳だよおっ母さん」という張り紙に、度肝を抜かれた東京・お花茶屋の駄菓子屋「梅原牛乳店」には、お年寄りからから子供まで、人が途切れることはない。お年寄りたちは、ひっきりなしに冗談を言い合い、笑いが絶えない。子供たちは、学校の帰り道に立ち寄るのを楽しみにしていた。通常は原稿のチェックや取材のお礼などはメールを使ってやり取りしている。ただ、古びた店構えと70歳を過ぎた女性店主に対して、その時ばかりは、恐る恐る「メールで……」というしかなかった。案の定、「そんなもんないわよ」とビシッと言われる。「ファクスは?」と尋ねると、それならあると聞いてホッとした。しかし、実際に送る段になると、なかなかうまく送れない。何度か試してやっとゲラが先方に届いた。数日後、「面白く書いてくれてありがとうございます」と電話がかかってきた。

 看板建築が特徴の埼玉・秩父にある老舗洋食店「パリー食堂」は、年を重ねた元気なおやじが切り盛りしているが、ここにはファクスさえなかった。仕方がないので、ゲラを印刷して郵便で送り、電話で確認を取らせてもらった。郵便局のカウンターで手続きを待っていると、新鮮な思いが込み上げてきた。普段でも、切手を貼った封筒を誰かに送ることは稀(まれ)だからだ。そんな取材先が何軒かいまだにある。パソコンに慣れてしまった我々は、正直面倒だと思う。そのわずらわしさも、また楽しいのである。そして、ほんの少しだけ自分のやってることに矛盾を感じることもなくもない。「古いものをテーマにしたウェブマガジン」というフレーズさえも、疑問を感じないわけでもない。長年紙媒体を主戦場としてきたが、それも時代だからと受け入れ、モヤモヤした気分を抱えながら、続けてきたというのが正直なところである。IT系のライターが言うことは、かなり正しい。「でも……」と思わされることを、この取材を始めて教わったことも事実だ。