コラム其ノ弐拾(特別編)
retroism〜article192〜
思い出は香りと共にある。
在りし日の遠い記憶が呼び覚まされる。楽しかったことうれしかったこと、時には思い出したくもないこともあった。脳裏には当時の風景、音、心象風景などありとあらゆるものが蘇ってくるのだ。
高校の頃、同じ軽音楽部にムスクの香りの香水をつけていた女子がいた。ひそかに恋心を抱いており、近くを通ると彼女がいることがすぐに分かった。それから20年ぐらい経って渋谷辺りを歩いていると、どこからともなくムスクの香りが漂ってきて、思わずハッとした。すかさず周囲を見回したが、彼女の姿は見つけられなかった。本人じゃなかった可能性の方が高いだろう。が、バンドをやってた充実した日々がまぶたに浮かんでは消えていった。よく聴いていたイーグルスやザ・バンド、竹内まりや、松任谷由実、サザンオールスターズなどの楽曲が頭の中を駆け巡った。七輪を使い炭火で焼いた魚は、匂いだけで酒が2合ぐらい飲める。辛抱たまらん!
昭和の時代は、至る所でたばこのにおいが薫っていた。たばこはどこでも吸い放題だったからだ。街中でも歩きたばこは日常茶飯事。バス停や駅のホームにも灰皿が置いてあった。映画館も紫煙が立ち込めていた。ちょっと地方へ行くとバスや電車の中でも吸えた。家の中には大小の灰皿が置いてあった。ヘビースモーカーの親戚のおじさんが泊まりにくると、大きな灰皿が枕元に置かれ、15分もするとおじさんが寝る部屋はモクモクになった。