ムスク、ポマード、金鳥の夏 思い出は香りと共に

 夏はなんと言っても蚊取り線香だろう。「金鳥の夏、日本の夏。」のキャッチコピーでおなじみだ。ブタの器をよく見かけた。立ち上る煙が憎き蚊を退治してくれた。住宅街の路地裏中が蚊取り線香のにおいだったので、誰も気にする人はいなかったと思う。クラスでいちばんのモテ男も、学校のマドンナもみんな蚊取り線香のにおいをさせていたのだ。

 もう一つ、夕立が降るとアスファルトと雨のにおいが合わさって独特のにおいを放つ。一気に涼しくなってちょっとはホッとしたものである。

蚊取り線香のにおいは強烈だ。すでにたかなくなった秋ぐらいまで部屋に残っている家もあった。これでは蚊もたまったものではないだろう

 食べ盛りの小中学生たちの学校での楽しみは、給食の時間だ。3時間目が始まる頃、給食のおばさんたちが料理の仕上げに入っていると、給食室から独特のにおいが漂ってきた。給食の時間になると、給食当番に頼んで、大盛りにしてもらったり、おでんの時などは、好きなタネを指名して入れてもらったりした。夕方になると、路地裏の至る所で夕飯のかおりが漂ってきた。特に焼き魚は、サンマやサバ、アジなど家ごとにさまざまだった。お父さんの頭には、徳利が思い浮かび、子供たちは、白いご飯が頭の中にチラついた。

 昭和という時代は、いろいろなにおいが街にあふれていた。今はほとんど消えてしまった。時代が変わったといえばそれまでだが、少し寂しい気持ちになってしまうのは、ないものねだりだろうか。

文・今村博幸



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