ムスク、ポマード、金鳥の夏 思い出は香りと共に

 季節の変わり目に電車やバスに乗るとナフタリンのにおいが充満していた。サラリーマンのコートが防虫剤と一緒にしまわれていたからだ。薬の効果は絶大だった。しまう時にうっかり入れ忘れたりすると、虫食いの穴があちこちにできた。

 ファッションに関しては、もう一つ気を使うことがあった。髪形だ。昭和初期のお兄さん(おじさん)たちは整髪に苦労した。そこで開発されたのがポマードである。水で濡らして癖をとった髪にポマードをつけてくしでなで付けるスタイルが一般化し、1960年代まで続いた。子供から見ると、大人の雰囲気が格好良くて憧れた。

それぞれ好みの香りがあり、服のようにまとえば、その人の個性になっていく。自身の存在ともシンクロしていき記憶にも残ることになる

 冬の暖房器具は石油ストーブが主流だった。円柱状が定番だったが、下部に灯油を入れる場所がついていて、そこにポンプの片方を差し込み、配達してもらった赤いポリタンクから、シュポシュポと灯油を流し込む。その作業を両親が始めると「あー、冬が来たんだな」と子供ながらに思ったものだ。石油ストーブは暖かかった。消えてしまったのは、安全性の問題と灯油を注文し本体に注ぐ面倒な作業があったからだろう。部屋の中が暖まって灯油のにおいにも慣れた頃、部屋は快適な温度になる。てっぺんには乾燥を防ぐためのアルミニウムのやかんが乗せられていた。正月が過ぎると餅を焼いて食べた。おやつとしては最高だった。

 家の外では、あちこちでたき火をしていた。落ち葉を集め車座になって暖をとった。葉っぱが焼けるにおいと中に入れた焼き芋の甘い香りが、子供だけでなくも大人の心をも盛り上げた。

スポンサーリンク

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする