子供たちの幸せが散りばめられたぬり絵の美術館

ぬりえ美術館(東京・町屋)

retroism〜article113〜

  自分の感性を「色」で紡ぎ出していくぬり絵は、素朴な子供の遊びである。昭和20〜30年代に大流行した。

子供たちは、可愛い洋服をお気に入りの色で染めていった。彼女たちの心の中は、塗った色以上の彩(いろどり)が広がっていたはずだ

 当時最も愛された画家の一人きいち(蔦谷喜一)氏の作品を中心に、来館者からの寄贈品や外国製、着せ替え人形などを所蔵・展示するのが東京・町屋にある「ぬりえ美術館」である。オープンは2002(平成14)年だ。館長の金子マサさんが説明する。「銀座にある化粧品の会社に勤めていた時、年に数回フランスに出張していましたが、現地の人たちに、『あなたのアイデンティティーはなんですか?』というような質問をよく受けたんです」。その時、日本は島国だから、自国のことを知らなくても、それに気付くことすら少ない。多くの人が知らないままで済ませてしまっている。

塗り絵といえば「きいちのぬりえ」。
洒落(しゃれ)者で多芸多才だった

 「私は、日本人なのに、日本のことを知らないと思い知らされました。そこで、歌舞伎や骨董(こっとう)品など日本の文化について勉強するようになったのです」1980年代終わりに、日本のアニメや漫画が世界で注目され始めると、金子さんは改めて思いを巡らしたと言う。「塗り絵も日本の文化かもしれない」と。ならば残す価値はあると考えるようになった。伯父にあたるぬり絵画家のきいち氏の作品が残っていたことが、そんな自分の思いと結びつく。有名画家や写真家の作品がアートの最高峰にあり、子供の遊びであるぬり絵画家は下に見られる時代でもあった。

きいち氏が最も人気を博した頃の塗り絵。時代によって、顔が小さくなり、足も細くなっている

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