童心に帰れる文房具のセレクトショップ

山田文具店(東京・三鷹)

retroism〜article120〜

 大人になっても文房具に惹(ひ)かれるのは、誰の体にも文房具という存在が深く染み込んでいるからに違いない。

手芸屋などでよく見かけたダルマ絹糸のケース。上には、職員室で先生が書類などを入れていたボックス

 物心ついた時から、クレヨンや色鉛筆で絵を描いた。小学校に入れば、シャープペンシルや消しゴムなどの筆記用具が、いつも身の周りにあった。数え上げればキリがない。ランドセルの中では、ノートや下敷きが走るたびにカタカタと音を立てた。授業中も宿題をやるにも、触れていたのが文房具だった。子供にとって、生活の中で欠かせない必需品そのものだったのである。もちろん今も、オフィスや家庭に存在しているが、時代は変わった。ほとんどのことが、パソコンをはじめとするデジタル機器で片付いてしまい、アナログな道具は脇の方へと押しやられた。

上のつまみを寄せるとストッパーが開き、鉛筆
を差し込んでハンドルをぐるぐる回す。削りた
ては、気持ちまでリフレッシュさせてくれた 

 どんな商売でも、店や商う品に対する愛がないと店主は務まらない。東京都三鷹市下連雀にある「山田文具店」の店主・山田麻美さんは、もともと文房具が好きで、買い物の途中によく立ち寄ったと言う。「『文房具をずっと売っていく』という決心がブレないように店名に入れて、『山田がセレクトした商品』ですよという意味を込めて、この名前に決めました」。真っすぐこちらを向いた笑顔の山田さんの目に、自信が垣間見える。「横文字の店名も考えたんですが、かえって分かりにくくなっちゃう。当店が何を販売している店なのかが分かりやすく、お客様に覚えてもらえてもらえるんじゃないかなとも思いました」。店名がストレートというだけでなく、店主の決心が表れた店名に託された気持ちは強くて深い。

かつて糊(のり)はチューブから出して指
で塗るモノだったが、やがて指がベトベト
にならない工夫の容器が何種類も登場した

 開店は2008年。前職は生活雑貨全般を扱う店で、仕入れを担当していた。「派手でなくても長く売れる商品を一つでも置いておけば、売り上げの基盤になる」ことを学んだと山田さんは言う。「それが同時に店のコンセプトにもつながっていくんです」。店内には、「昔、使ってたよなあ〜」という商品があちこちに陳列されている。「私たちの中ではロングセラー商品と呼んでいますが、懐かしいモノを意識的に置いているところはあります。昔からある商品って、リピーターがいて一定の需要があるので、廃番にならないので、結果として今も残っているんです」 職員室の先生の机にあった整理箱を活用。左に見えるのは出席簿。いたずらすると、これで頭をポンとたたかれたりした

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