電車に夕日、紫煙と珈琲 我が青春の玉突き場

淡路亭ビリヤード場(東京・御茶ノ水)

retroism〜article104〜

 近代的なビルが立ち並ぶ大都会・東京だが、随所に時代がかった建物が並ぶ場所や通りがひょっこり顔を出すことがある。神田川に並行して走る、昌平坂交差点からJR御茶ノ水駅へと向かう外堀通りには、まさに忘れ去られたような建物が軒を連ねる。湯島聖堂寄りに静かにたたずんでいるのが、「淡路亭ビリヤード場(以下淡路亭)」だ。

世界のトップブランドであるAdamの社長から淡路亭の前田社長へ贈られたオリジナルキュー。1973(昭和48)年製だ

 店を預かるのは、酒井優(まさる)さんである。最初に店を訪れたのは、10代後半の頃だったと言う彼は「友だちに連れられてきたのが最初です。やってみたら単純に楽しくて、すぐにハマっちゃいました。今でもやり始めると、あっという間に何時間も経ってしまいますね」と当時を懐かしむ。「その魅力は?」との質問に、酒井さんは、しばらく考えて言葉を継いだ。「アナログだというのがひとつあると思います。加えて、扱う玉は球状なので、なかなか思い通りに動いてはくれません。だから頑張って練習して、またチャレンジする。結果は良いときも悪いときもありますが、充実感を味わえるのは、全て自分で責任を負うことができるところでしょうね」。そう力説する酒井さんの目の輝きが増した気がした。

プレーヤーが最も緊張する瞬間は、キューが手玉
に当たる時だが、最も気持ちが高ぶる時でもある

 「確かに、やればやるほど上手になっていきます。練習しただけの結果は必ず出ますが、理解が深まり、これでいいんじゃないか、ちょっとわかってきたかなと思い始めた頃にまた、考え方がずれていたことに気が付きます。『大元は間違ってはないけれど』ってね。その繰り返しなんです」。つまり一言で言うと「奥が深い」のだ。「ビリヤードにはこんな言葉があります。『やればやるほどわかってくるが、わかればわかるほど、わからなくなる』って。その積み重ねが楽しくて、離れられなくなるのではないでしょうか」

窓からは神田川と電車が見える開放的な店だ

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