昭和文化の名脇役・たばこに想い馳せ

コラム其ノ漆(特別編)

retroism〜article69〜

「たばこは文化である」と言ったのは劇作家の山崎正和氏だ。小説家・開高健は「人生は煙とともに」と、インタビューで答えている。

 飲食店に行っても、灰皿は必ず置いてあった。バーや居酒屋などの酒場においては、なくてはならないものだった。昭和歌謡の歌詞や古い映画にもしばしば登場し、名脇役として(時には主役として)存在していた。文化そのものだったと言ってもいい。

爆発的人気を博した1957(昭和32)年の日本専売公社(現
日本たばこ産業)が作ったポスターのキャッチフレーズだ

 昭和歌謡を見渡すと、男女が織り成すドラマの機微を冗舌に語るのがたばこだった。男として膝を打ったのは、松田聖子の「赤いスイートピー」だ。2小節目に出てくる歌詞、「煙草(たばこ)の匂いのシャツにそっと寄り添うから」と聴くと、思わず吸いたくなったものだ。歌に登場する男は随分シャイで、もしかしたら照れ隠しのために、または途切れがちの会話を埋めるために、たばこをくゆらせていたのかもしれない。松本隆の言葉の魔術にまんまと絡めとられる快感がこの歌にはあった。

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