郷愁誘う精緻なミニチュアハウス

和雅家(東京・青海)

retroism〜article12〜

「最初にある場所でミニチュアハウスを見た瞬間に、グッときてしまいました。土の温もりを、店の風景からすごく感じられたのです」

 代表取締役の金田伸隆さんは、当時を思い出すように、目を輝かせた。昭和の頃に当然のように存在したが、今はほとんど見られなくなったものは多い。その一つが、「土」である。特に都会において、土を目にすることはめっきり減っているのだ

30年前、40年前にふぅ~っと迷い込んだ気持ちにさせられるミニチュアの数々

 かつては違った。いたるところに空き地があり、道もコンクリートで覆われておらず、土がむき出しだった場所を、我々は歩いてきたのである。「和雅家」は、まさにその土の匂いや踏みしめた時の感触を、見る者に思い出させる場所だ。それは豆腐屋、たばこ屋、駄菓子屋等々、消えゆく店の数々が、心の奥ににしまわれ忘れていた自分の中のノスタルジーを刺激するからだろう。作られたものと頭で理解していても、思わず見入ってしまうのだ。ディテールの精緻さが、その周囲にあったであろう、またはそこに行くまでの道のりで踏みしめたであろう、「土」までも感じさせるのである。

残ってはいるが、随分減ってしまった街の豆腐屋。朝早く
手づくり豆腐屋の前を通ると漂う、大豆を煮る香りが蘇る

 ミニチュアハウスはキットになっていて、自作して楽しむ仕様になっている。「もともと模型的なものは大好きでした。自分で作る喜びは、知っているつもりです。だから、作れるというところにも惹かれたのだと思います」

 シリーズに分かれていて、昭和シリーズには、駄菓子屋、たばこ屋、新聞屋など。懐かしの市場シリーズは、豆腐屋、お茶屋。屋台シリーズには、ラーメン屋、たい焼き屋。食欲をそそられる店ばかりで、興奮せずにはいられない。

たばこ屋の「看板娘」はおばあちゃんだった。公衆電話の標識と郵便ポストも店先のセットアイテムだ。大きすぎるたばこはご愛嬌

 最大の魅力であるディテールを金田さんが解説する。「例えば、ラーメンの屋台の横のカゴにはラーメン用の長ネギが用意されているし、たばこ家のショウウインドウには、ゴールデンバッドなどのたばこ。駄菓子屋の棚には、きなこ飴、軒先には犬が飼われています。私が最初に作ったのが、このたばこ屋さんでした。作り始めると、意外とハマりますよ。出来上がりを想像し、ワクワクしながらの作業は、大人も夢中にします」。それらを見ながら自由に自分の物語を紡いでみるのも楽しい。

個人商店の店先には、小さな花壇もつきものだった。朝顔の鉢植えは、夏休みの思い出の片隅に刷り込まれている

 さらにここでは、店の人の指導のもとに、ミニチュアハウス作りができるスペースを設けているので、自信のない人でも、気軽に手作りの楽しさを味わうことが可能だ。

ちょっとした商店街に一軒はあった、手作りのおでんだね屋。鍋で煮られたちくわぶやはんぺんは、子供たちのおやつでもあった

 昭和とは、なんだったのか? 金田さんに聞くと「激変」という興味深い答えが返ってきた。「あらゆるものが、激しい変化をした時代だと思います。戦争もあったし高度成長もありました。バブルがあって人が浮かれ、人災、天災を含めてそれまで人間が経験したことのない悲劇もたくさんありました。私個人的には、楽しいことよりも、大変の方が多かったように思いますね」

ビニール袋を通して見える完成図が、ワクワク感を誘う

 天災や人災は別にしても、いろいろな浮き沈みがあったからこそ、今となっては輝かしく美しいと思えることもある。過ぎてしまえば、「あの頃は大変だったね」などと笑って話せることもたくさんあるのだ。

面白いのは、ヴィーナスフォートという現代の商業
に、昭和の風景のミニチュアが並んでいること

    そんな激動の時代に建てられたミニチュアハウスと同じような風景は、おそらく日本中を探せば、いやこの東京にだって実はどっこい生きている。「実物大のミニチュアハウス」を探して、小さな旅に出かけてみるのも面白いだろう。

わがや
東京都江東区青海1-3-15 ヴィーナスフォート
ウエストモール2Fノースアヴェニュー

📞090・4168・9873
営業時間:午前11時~午後9時
定休日:無休(全館休館日を除く)

文・今村博幸 撮影・柳田隆司

スポンサーリンク

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする