何もないが幸せだった ベーゴマとメンコの日々

コラム其ノ拾(特別編)

retroism〜article85〜

 物がたくさんあることは果たして、幸せなのだろうか? 子供の頃の遊びを振り返る時、そんな疑問が心に浮かぶ。昭和30年代から40年代にかけて、今と比べれば、物資に乏しかった。

 遊び道具も決して豊富とは言えない。与えられるものは最小限。スイッチを入れさえすれば、すぐにゲームの画面が現れるなどは想像すら出来なかった。ならばどうしたのか。自ら作り出さなくてはならなかったのだ。ルールも状況によって友達と話し合いながら決める。同じ遊びでも、地元ルールが存在していたのは、当然と言えば当然である。

 はじめから用意された道具や決められたルールはなかったが、一つの遊びにしても、次々とルールが変わっていき、基本はあったとしても、変幻自在に形を変える遊びは、子どもたちを飽きさせることはなかったと思う。例えば、ベーゴマ。鋳物で作られた単純極まりないおもちゃだ。床(とこ)の張り方から、ひもの巻き方、コマの改造まで多くの手順と技術が必要な、奥深い遊びだ。

かつては、いくつかの工場によって作れていていたベーゴマ。現在作っているのは1軒のみだ

 まず、床に張るのは、キャンバス地やビニールシート、台にはプラスチックの樽(たる)が使われた。両者とも、誰がどこかから持ってきたのか分からなかったが、そういうものが割と簡単に手に入った時代の話だ。おそらく近所の商店か町工場あたりのおじさんかおばさんに、頼んでもらってきたものだったのだろう。いつも集まるメンバーの中に、張り方の上手いやつがいて、その役を請け負った。ただ、いない時は難儀した。床張り名人の二番手が受け持つこともあれば、集まったみんなで、四苦八苦することもあった。何しろ、シートがきちんと張られていないと、コマが正常に回らない。まさに、舞台が良くないとつまらない芝居のように、楽しさも半減してしまうのだ。

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