何もないが幸せだった ベーゴマとメンコの日々

 紐(ひも)の巻き方も数種類あった。最も一般的なのは、紐の端10センチぐらいを残して、コブを数センチの間隔を開けて二つ作り、とがった部分を中心に巻いていく、女巻きと呼ばれるやり方だ。紐を引いた時の力が、コマに伝わるように、しっかりと巻くのが肝要だ。ベーゴマで最も大切なのは、試合に臨む前の入念な準備である。一般的に、重心が低く重さがある方が有利とされていた。そこで子どもたちは、コマの先端を(最下部)をヤスリで削って、高さを低くすることに夢中になった。また六角形や八角形の縁を削るのもよく行われた。コマ全体のバランスを整えるのと、相手のコマとあたった時に、弾く力を強くするためだ。さらに、重量を増すために、コマの上にロウを垂らしたり、丸い鉄板を接着剤で貼り付けたりもした。強いコマを作るため、「削る」という作業は、戦いに臨む前の大事な準備だったのである。

 最初から最後まで、ベーゴマにまつわるもろもろの作業は、根気のいる手作業だった。売っている元のコマのままでは、実際には使い物にならず、最強のコマを作るために、自分の手と頭を使った創意工夫が必要だった。しかし、作り上げた時点で喜びはすでに大きかったし、対戦で勝てば全てが報われた。もうひとつ、当時のヒーローの名前が書かれていたことも、心を弾ませた。「長島」、「王」、「力道山」など、子どもたちにとってのスーパースターの名前が掘られているだけで興奮し、それを所有することで、気持ちは高らかに鳴リ響いたのである。

昭和の時代に多く作られた黄金バットや怪物くん、エイトマンの絵柄が郷愁を誘う

 戦わせて所有権が移る、俗に言う「喧嘩(けんか)ゴマ」がベーゴマの基本だが、メンコも同じだった。勝負の着け方で一般的だったのが、「起こし」だ。地面に置かれたメンコの脇に自分のメンコをたたきつけて風圧で裏返す。相手のメンコの横に足を置くなどの技もあった。自分のメンコが相手のメンコの下を通過するなど、地方ルールを含めると、さまざまな戦い方があった。いずれにしても、ベーゴマと同じように、勝負をして、勝てば所有権が移動する。

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