古いシトロエンが教えてくれる新しいカーライフ

ジャベル(東京・荏原)

retroism〜article4〜

「昔の車は、金属とゴムでできています」。いきなりそう切り出した代表取締役の竹村洋一さん。「ジャベル」で、シトロエンの中古および新車の魅力を発信し続けるスペシャリストだ。

1973年製、DS23IE Pallasは、シトロエン専用の油圧を使用した半自動ミッション。独特の、吸い込まれるようなギアシフトの操作感が最大の魅力

「パーツが残っている車はいつまでも生き続けます。コンピュータなんか入っていない。機械そのものです。だから腕のいいメカニックにかかればちゃんと直る。なんだか、生きものに近い気がします」 。それに比べて、今の車はコンピュータでできていると、竹村さんは目を伏せる。

「樹脂とコンピュータの塊だから、ブラックボックスがいっぱいついていて、それらが壊れたらそこを交換するだけ。修理もへったくれもない。もっと言えば使い捨てなんです。素晴らしい性能は持っているかもしれないけれど、1台の車を気に入ってずっと乗り続けたい人にとっては、面白みはないし、寂しく感じると思います。実際に僕も寂しい」。竹村さんの辛辣(しんらつ)な言葉は続く。決して、昔は良かったというような、後ろ向きの話ではない。車が本当に好きだからこその、いわば愛の鞭(むち)だ。

元々は装備されてなかったエアコンなどを付加することで、往年の名車を快適に乗れるように整備する。それがジャベルの真骨頂だ

「デザインにしても、今の車は安全対策で、窓が小さくなって、ピラーが太くなっちゃってます。かえって視界が狭くなってる。原因は、昔みたいに自由にデザインできないからですよ。昔の車は、個性があったし美しかった。まさに機能美です」。メーカーが自信を持っていた時代だったとも竹村さんは言う。「だから自分の信じるものが作れた。今はマーケティングで作っているような感じがしてなりません」 

ヘッドライトが特徴的で、その見かけからフロッグと呼ばれる。稀少性がありマニアにとってはたまらないモデルだ

 そんな竹村さんの車好きの根源は、ちょっと意外なところにある。「子供の頃から自動車少年でした。なにしろ、家の稼業が車屋ですからね。生まれたときから、すごそこに車があって共に育った感じです。小学校の頃から職人にくっついて、車探しに出かけたりもしてました。でも、その原点を考えてみると、僕の生き物好きからきてると思っています」。ここで、最初の言葉に戻るわけだ。「車は、生き物に近いのだ」と。だからこそ、ひと時代前の車に魅力を感じるということになる。

 竹村さんが、父親がやってきた軽自動車中心の修理工場をシトロエン専門にしたのは、自動車修理の仕事が年々減っていた頃だった。「車の修理もだんだん仕事が減っちゃってた頃で、一時期は今日は何しようというぐらい暇でした。どうせ暇なら自分の好きなことやっちゃえって、シトロエン専門にしちゃったんです。わりと後ろ向きの動機でした」

    シトロエン用のあらゆるメーターを常備してい
 る。他にも、可能な限りの
パーツがそろってい
 るのは、専門修理をうたうジャベルならではだ

 そもそも、シトロエンとの出合いは、大学生の頃だった。「ある同業者がシトロエンGSをうちの工場の前に横付けしたんです。僕が20歳ぐらいの頃でした。それがあまりにもよくて。実際に試乗させてもらうとハンドルの反応がすごく正確で気持ちいい。油圧式のハイドロニューマチックのサスペンションのおかげで、乗り心地がたまらない。他にはない乗り心地でした。こんなすごい車があるんだと、一発でやられちゃいましたよ。しかも遊び心が満載。独創的な車体の形状、ハンドルの動きに連動して左右に振れるヘッドライト、アクセルやブレーキの形も普通じゃないし。ギアチェンジすると、油圧の流れるシュー、シューって音がする。まるで息をしているみたいにね。本当に生き物っぽい車です」

 竹村さんは、シトロエンに取り憑(つ)かれた。元々は車の修理屋さん。基礎的な知識や技術はある。だから、自分でシトロエンの勉強を深めていきながら専門店にしてしまったのだ。シトロエンの魅力を、竹村さんは改めて強調する。「唯一無二。こんな車、今も昔もありませんでした」 

アクセルやブレーキの個性的な形状もシトロエンの魅力の一つ。「運転すればその楽しさはわかってもらえると思います」と竹村さん

  最大の魅力は、何と言っても乗り味だ。それを生み出しているのは、サスペンションからブレーキ、ギアチェンジやパワーステアリングもすべて油圧で行っている独自のシステム。これは他の車には全く見られないシトロエンだけが持つ大きな特徴だ。「エアサスペンションと似てるっていう人もいるけど、僕は違うと思う」。窒素ガスと油の上に車が乗っかっているという不思議、としか言いようがない。

「人間でいうと、お母さんのお腹の中にいるときの、羊水に包まれている赤ん坊に近い感覚だと言われています」。まさに、生き物そのものではないか。「ハイドロニューマチックという方式は、最近まで使われていたのですが、実は最近やめちゃったんです。本当に残念でなりません」。だからこそ、古い車を直して客に提供する。少なくとも、竹村さんにとって、シトロエンは車メーカーに元気があって、個性があった頃の象徴でもある。「今後も同じです。昔のシトロエンは味が濃い。そんな古いシトロエンを直して、本当に好きな人たちに乗ってもらう。その手助けを続けていきますよ」。竹村さんの目が輝いていた。

DS用の整備解説書。英語とフランス語で表記されている。50年前の貴重品。これがあれば、古い車も必ず修理が可能だ

「若い人たちにも乗ってもらいたいですね。車はその人のライフスタイルそのものだと思うんです。また車は伴侶でもあります。普段使いしてほしい。だから、独自に排ガス規制をして、エアコンをつけて快適にしたクラシックカーを売っています。最近エコが騒がれていますが、何が一番エコかって、一つの車に長く乗るのがエコだと思いますよ」。車に携わる者として、その存在がもつ負の部分も忘れていない。それこそが竹村さんならではの愛情表現なのかもしれない。

 三角の土地に店がある。シトロエンのエンブレムに似た形なのは偶然か

 竹村さんによって新しい命を吹き込まれた古いシトロエンは、令和の時代も生き続けている。

じゃべる
東京都品川区荏原2-18-10
📞03・3784・5051
営業時間:午前9時~午後6時
定休日:月、第2・第4日曜日、祝
http://www.javel.co.jp/

文・今村博幸 撮影・柳田隆司