蓄音機が紡ぐ亡父と娘の絆

民芸茶房・木亭(埼玉・秩父)

retroism〜article6〜

 音楽にはいろいろな聴き方があるし、あっていい。クリアな音を楽しむならCD。味のあるLPレコードも魅力的だ。一方、全く異次元の音色を堪能したいならSP盤へと行き着く。聴くためには蓄音機が必要だ。

回るレコード盤をから目を離さずに、娘さんが言った。「父もここに立って、お客さんと話しながら、レコードをかけていたんですよね」

 その蓄音機が店の中心に鎮座する茶房、それが「木亭」である。開店は35年前。子育てがひと段落ついた頃、何かしたいと考えたオーナーの塚越早苗さんが始めた。炭火で焼いた豆をハンドドリップで淹(い)れる香り高いコーヒーやスパゲティ、パティシエールである娘さんのプリンなどもおいしい喫茶店だ。

康一さんは、なんでも自分で作ってしまう人だった。このレコードの袋も自作。きちょうめんな字で、歌手名と楽曲名が書かれている

 木亭があるのは、移築した古民家の2階。店内に置かれた松本民芸家具の椅子も、ガラス製の年代物のランプシェードも、食器も、すべて夫の康一(やすいち)さんが集めたものだ。あらゆるものに対してこだわった康一さんは幅広い趣味の持ち主でもあった。絵画に始まり、骨董(こっとう)収集、オペレッタを地元で催したり、消しゴム版画の製作に至るまで、芸術・文化全般にわたって造形は深かったと、娘さんが言う。「何より、秩父に人をたくさん呼びたいというのが、父の思いだったみたいです」。そして、多くの興味のひとつが、店にある手回しの蓄音機だったのである。

コーヒー回数券はおまけが1枚ついて11枚つづり5400円。紅茶なども飲める

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