古いシトロエンが教えてくれる新しいカーライフ

 「デザインにしても、今の車は安全対策で、窓が小さくなって、ピラーが太くなっちゃってます。かえって視界が狭くなってる。原因は、昔みたいに自由にデザインできないからですよ。昔の車は、個性があったし美しかった。まさに機能美です」。メーカーが自信を持っていた時代だったとも竹村さんは言う。「だから自分の信じるものが作れた。今はマーケティングで作っているような感じがしてなりません」 

ヘッドライトが特徴的で、その見かけからフロッグと呼ばれる。稀少性がありマニアにとってはたまらないモデルだ

 そんな竹村さんの車好きの根源は、ちょっと意外なところにある。「子供の頃から自動車少年でした。なにしろ、家の稼業が車屋ですからね。生まれたときから、すごそこに車があって共に育った感じです。小学校の頃から職人にくっついて、車探しに出かけたりもしてました。でも、その原点を考えてみると、僕の生き物好きからきてると思っています」。ここで、最初の言葉に戻るわけだ。「車は、生き物に近いのだ」と。だからこそ、ひと時代前の車に魅力を感じるということになる。

 竹村さんが、父親がやってきた軽自動車中心の修理工場をシトロエン専門にしたのは、自動車修理の仕事が年々減っていた頃だった。「車の修理もだんだん仕事が減っちゃってた頃で、一時期は今日は何しようというぐらい暇でした。どうせ暇なら自分の好きなことやっちゃえって、シトロエン専門にしちゃったんです。わりと後ろ向きの動機でした」

    シトロエン用のあらゆるメーターを常備してい
 る。他にも、可能な限りの
パーツがそろってい
 るのは、専門修理をうたうジャベルならではだ

 そもそも、シトロエンとの出合いは、大学生の頃だった。「ある同業者がシトロエンGSをうちの工場の前に横付けしたんです。僕が20歳ぐらいの頃でした。それがあまりにもよくて。実際に試乗させてもらうとハンドルの反応がすごく正確で気持ちいい。油圧式のハイドロニューマチックのサスペンションのおかげで、乗り心地がたまらない。他にはない乗り心地でした。こんなすごい車があるんだと、一発でやられちゃいましたよ。しかも遊び心が満載。独創的な車体の形状、ハンドルの動きに連動して左右に振れるヘッドライト、アクセルやブレーキの形も普通じゃないし。ギアチェンジすると、油圧の流れるシュー、シューって音がする。まるで息をしているみたいにね。本当に生き物っぽい車です」

 竹村さんは、シトロエンに取り憑(つ)かれた。元々は車の修理屋さん。基礎的な知識や技術はある。だから、自分でシトロエンの勉強を深めていきながら専門店にしてしまったのだ。シトロエンの魅力を、竹村さんは改めて強調する。「唯一無二。こんな車、今も昔もありませんでした」 

アクセルやブレーキの個性的な形状もシトロエンの魅力の一つ。「運転すればその楽しさはわかってもらえると思います」と竹村さん