土手の伊勢屋(東京・日本堤)
retroism〜article329〜
「老舗」の風格を感じさせる古い木造建築のたたずまいは、威容さえ感じさせ、見る者に訴えかける歴史の重みが伝わってくる。東京・日本堤にある天ぷら屋「土手の伊勢屋」。2010(平成22)年には登録有形文化財に認定された。 天丼は、(イ)2100円(ロ)2600円(ハ)3100円の3種類。写真は(ハ)。
エビやアナゴ、レンコンなどの野菜が載る豪華版。箸が止まらない
4代目店主の若林喜久雄さんが、老舗の主人らしい落ち着きで話し始めた。「もともと定食屋みたいな一膳飯屋だったんです。天ぷらをはじめいろいろなおかずとご飯という形でお客様に提供していました。2代目の時に、天ぷら専門店になりました」
昼のみの営業。いつもうまい天丼を求めて行列を作る客たち。確かに並んでも食べたい程の味だ
少し時代をさかのぼると、江戸前天ぷらは、屋台から始まった。ただでさえ火事の多かった江戸の町では、屋内で火を使うことを禁じられていたからだ。さらに基本的な定義もあると若林さんは言う。まず、ごま油を使うこと。屋台からは香ばしい匂いが客を店に呼び込んだ。タネは東京湾で獲れた新鮮な海鮮が使われた。「車エビ、メゴチ、ハゼ、アナゴ、キスなどを串揚げスタイルで売っていたようですね。魚は小魚に限られていました。粉をつけて、揚げるので、必ず尻尾が見えるように揚げます。それで魚種を判断できるというわけです」
調理場と店内を繋ぐ扉。年季が入った様が店の歴史の重さを物語る