「う〜ん、マンダム」 蘇る50年前の記憶と世相

  一説によると、テレビ通販の第1号とも言われている「スタイリー」が発売されたのは72(同47年)だ。「スタイリースタイリー、スタイリースタイリー♪」という音楽とともに、腰を上下に動かす健康器具だ。鉄パイプでできていて、見るからにチャチだった。子供ながらに、あれで体が鍛えられるのかと疑っていた。ただ、敗戦国である日本は、外国人に対して、少なからずコンプレックスがあり、信用してしまう人も少なからずいたはずである。最後に電話番号のテロップと同時に社長とおぼしき外国人が出てきてさっと折りたたみ、軽々と持ち上げて、「ワタシニデンワシテクダサイ、ドウゾヨロシク」と、外国語なまりの日本語でトドメを刺す。日本の広告界をけん引してきたリーディングカンパニー・電通。数々の名作を世に送り出してきた業界の「ガリバー」だ

 70年代、日本の成長と発展はスピードを増し、人々の暮らしも少しずつだが余裕が出てきた。それが伺えるのが、モービル石油の「旅立ち」とタイトルがつけられたCMだった。マイク真木が作詞作曲を手がけた「気楽に行こう」(ザ・モップス)がバックに流れ、まさに世相を言い表していると感じる。

 田舎道で止まってしまった車を、鈴木ヒロミツと藤竜也がのんびりと押していく。全然「モーレツ」ではない日本人が、そこには現れたのだ。最後の締めの言葉(ナレーション)は加藤和彦が担当。「車はガソリンで動くのです」。言葉までのんびりしていた。

 この類いのCMはまだまだたくさん存在する。ところが現在はどうだろう? 50年後まで語り継がれるCMは作られているのか。老婆心ながら、いささか不安がよぎってしまうのである。

 いつまでも頭からこびりついて離れない、これぞCMの真骨頂なのだから。

文・今村博幸