「う〜ん、マンダム」 蘇る50年前の記憶と世相

 セクシー系で忘れられないのが、80(同55)年に登場した宮崎美子のミノルタX7のCMである。海岸の木陰で、ジーンズを脱いで水着に着替えるインパクトは強烈だった。脱ぐ前に、ちょっとだけ周りを気にするところで日本人の奥ゆかしさを表現するあたり芸が細かい。あらゆることに挑戦していた広告業界の勢い(なんでもアリ)が伝わってくる。BGMには、斉藤哲夫の「いまのキミはピカピカに光って」が使われたのも印象深かった。絞り優先AE専用機を各社がこぞって発売し、その激戦区にミノルタが満を持して参入した入門機だった。カメラ自体も、一眼レフにさまざまな機能を搭載し始め、にぎやかな時代でもあった。

 同じ69(同44)年頃、テレビをつけると、毎日のように顔を拝むことができた大橋巨泉が出演した、パイロット万年筆の「パイロットエリートS」のセリフは、人々に大きな衝撃あたえた。理由は二つある。一つは、その意味すらわからないメッセージにあった。もう一つは、そのセリフが、大橋のアドリブだったということである。「みじかびの キャップリキとればすぎちょびれ やれかきすらのハッパふみふみ」。これについて、のちに大橋は「ただ全体の三十一文字を繰り返すと、何となく、“短くて書き良い万年筆”というイメージが浮かべばいいのである」と語っている。実際に、なんとなくわかるようなわからないような、文字の羅列は、少なくとも消費者に、万年筆へと目を向けさせたことは間違いないだろう。1960年代後半から80年代と言えば、テレビ全盛の時代。CMも個性的で記憶に残るものが多く制作された

 70(同45)年、「世界の三船(敏郎)」が起用されたサッポロビールは、世の男たちに男らしさとは何かを訴えかけた。実際、三船は一言もしゃべらない。黙ってうまそうにビールを飲み、上唇に残った泡を吹き飛ばして終わる。ナレーションと赤い手書きの字幕だけで「男は黙ってサッポロビール」とアナウンスだけが流れたのも珍しいパターンだ。「男は黙って〜」というフレーズが、おじさんたちに広まっていく。あの言葉に、世の男たちがどれだけ勇気をもらったか。キャスティングも良かったと言わざるを得ない。三船がいうから説得力があったのだ。

 男の匂いがテレビの画面からあふれていたのは、チャールズ・ブロンソンを配し製作された男性化粧品「マンダム」である。あごを撫でながら「うーん、マンダム」で締める。米国、ユタ州南部からアリゾナ州北部にかけて広がるモニュメント・バレーを砂ぼこりを上げながら馬に乗ってさっそうと走るブロンソン自体が男の匂いプンプンだった。BGMに使われたジェリー・ウォレスの「Mandom -Lovers Of The World(邦題:マンダム〜男の世界)」も耳に心地よかった。子供たちの間では、「あごになんかついてるよ」と言い友達が顎に手を持っていくと「うーん、マンダム」という遊びがはやったのも懐かしい。監督を務めたのはあの大林宣彦だったことはあまり知られていない。