旗の台つりぼり店(東京・旗の台)
retroism〜article42〜
一瞬、己の目を疑った。
外観、入り口ともに紛れもなく銭湯。よく見ると「つりぼり」という看板がある。いぶかしげに中へ入ると、まごうことなき釣り堀が広がっていた。
こちらは大きめのコイが泳ぎ、壁を隔てたポンド(池)には、子供や女性でも釣りやすい小型のコイが泳ぐ
「釣り堀と銭湯は似ているところがあるんですよ」。「旗の台つりぼり店」の店長・柳田久光さんはそう言って説得力のある説明を始めた。「釣りは、針を扱うのでルールとマナーを守らないとけがをします。だから知らないおじさんに叱られる。それはちょうど、僕らが小さい時に銭湯で注意されたのとそっくりです。うちも同じです。常連さんが釣りを教えてくれたり、危ないからやっちゃダメだよって叱ってくれる。当然、世代を超えた交流がそこにはあります。良い悪いの教育の場なんです」。一気にそう言った柳田さんは、「最近、少なくなっちゃいましたからね」と少し寂しそうに言った。
きれいに手入れされた竿が美しく並ぶ。 店主の釣りに対する愛情がうかがえる
柳田さんがこの釣り堀を始めた経緯には、一連の物語があった。もともと工務店の「代表取締役大工」だった柳田さんは、カメラマンからスタジオ用に天井の高い物件を探してくれと頼まれた。「風呂屋ぐらいしかない」と思い、知り合いのつてを頼りに風呂屋を探す。「後輩に聞いたら、来週廃業するところがあるっていうんですよ」。話はトントン拍子に進んだ。ところが、ある程度進んだところで、カメラマンからキャンセルの連絡が入った。「僕から探してくれと頼み込んだし、後輩の顔を潰すわけにもいかないので、『僕が責任取りますよ』っていう形にしたんです」
瓶入りのハイサワーはりんご、うめ、グレープフルーツ、レギュラーの4種類、プラッシーまでそろっている