時刻表に詰まったロマンと憧れを私設博物館に

 一冊の本から、あらゆる方向へ無限に広がる世界があった。それは、昔も今も変わらない。愛情表現には、いろいろな方法があることも時刻表が教えてくれた。鈴木さんは、ミュージアムを訪れた来場者のエピソードを語ってくれた。「亡き家族が乗った列車、降りた駅、足跡を辿る方がいらっしゃいます。時刻表でどんな時間に走っていたのか、調べてほしいという依頼でした。例えば、亡くなったお父様が出かけた山とか川、時間が経た景色を見てみたい。トレースしたいとおっしゃいました」。天国へ召された親や祖父や祖母が辿った道と同じ道を歩いてみたい。それも家族の愛し方なのだ。「私も、そういうストーリーにのめり込んでしまう質(たち)で。断片的な記憶を聞きながら、『こんな駅があって、何時発で何時に駅を降りたと思われます』とお伝えしました」

ブルートレイン「さくら」のB寝台用の切符。昭和47年当時はまだほとんどが手書きだった

 さらに鈴木さんは続ける。「広島出身の人に聞いた話です。60代半ばの方だったと思います。中学に入学すると親元を離れて暮らすことになり、月に1回家に帰っていたそうです。家に帰る時には、『早く帰りたいだろう』と子供の気持ちをおもんぱかって、急行券を買うお金をくれたそうです。帰りは、乗車時間が短い方が楽だろうと、また急行券のお金をくれた。でも、『速い列車で家を離れ、またつらい生活に戻っていくのは切なかった』とも彼はおっしゃいました」

839冊(取材時)の時刻表で埋め尽くされた本棚。眺めているだけで壮観だ

 時刻表には、その都度列車に乗り降りした時間が書かれている。その時間を見るごとに、「あの時は弁当を買ったな」とか、「ホームで列車を待っている時が寒かった」とか、違った記憶が呼び起こされるとその来場者は言った。自分の歩んできた道を振り返ることで、未来に向かう新しい発見につながるのではないだろうか。時刻表がそのきっかけになるかもしれないと感じた。

鈴木哲也さん0歳(右)。関西出身の母親に抱かれて、0系新幹線でよく帰省した。顔が可愛い

 ページをめくれば時代の息吹が聞こえてくる。今後は「時刻表はもちろんのこと、他にも昭和の記憶を辿れるようなものを展示していきたい」と鈴木さんはしみじみと語った。

じこくひょうみゅーじあむ
来場予約はHP内メールフォームから
https://jikokuhyo-museum.tokyo/
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  文・今村博幸 撮影・JUN