昔ながらの商店街の絶品総菜と温もりにほっこり

 隣同士の肉屋と焼き鳥屋が暇に飽かして立ち話にも花が咲く。耳を澄ますと、近く行われる飲み会の打ち合わせらしい。商店街そのものが、街の人たちの社交場でもあるのだ。

 さらに楽しみの一つは、総菜屋から流れてくる、いい匂いが次々に襲いかかってくることである。焼き鳥屋からは、炭火で焼いた芳ばしい匂い。引きも切らずに客が店に吸い寄せられていく。「ねぎま、ハツ、レバ5本ずつね」と客が言う。今晩の食卓を焼き鳥が飾る。もしかしたら、晩酌用かもしれない。うなぎ屋が串焼きを出していたら、多くの客にっとって素通りするのは至難の業だ。酒屋でビールを用意してから、数本買って歩きながら食べている人もいる。こういうのが最高にうまいのだ。

 揚げ物屋もたまらない。唐揚げやメンチカツ、トンカツの食欲をそそる見た目は、どこからくるのか? どう見ても手作りだからであろう。実際に店の奥では、黒くなった深鍋で、調理している様子が見えることもある。喉が鳴る。店主の機嫌がいいときには、小さな唐揚げを爪ようじに刺したおまけがつくこともあった。もう一つ忘れてならないのは、肉屋のコロッケだ。どの店も間違いなくうまい。その理由を誰か研究してくれないだろうか。

唐揚げ、焼き鳥、コロッケをはじめ、どれもリーズナブルなのがうれしい=十条銀座商店街で

 匂いに関しては商店街で不思議なことがある。匂いが混じることなく、奇麗に分かれて漂ってくることだ。揚げ物、煮物……。魚屋の前を通ると、確かに魚介類の匂いはするが、決して嫌な匂いではないし、周りに広がることもない。筆者は、個人的に魚屋の匂いが好きである。

 おそらく地元の人は、家を出る時に、夕飯のおかずを決めてから買い物に行く違いない。夕方ちょうど腹が空き始めた時に、商店街を通り抜ければ、目移りして何を買っていいのか判断力を失うに違いないからだ。下手すると買い過ぎてしまうこともしばしばだ。

「SALE」の文字を見るだけで、なぜか心躍る気分になる=砂町銀座商店街で