受け継がれる「吉田イズム」 ニューちぐさ誕生へ

 ちぐさは何度も消滅の危機にさらされた。店舗を失った時もあったが、そのたびに復活した。それは「ジャズ」という音楽が媒介になり、「ちぐさ」という空間に集った常連たちの努力や存続を望む強い意思があったからにほかならない。新村さんは続ける。「吉田は音楽好きだけど、加えてジャズメンを応援するというスピリットが強かった。誰かの役に立ちたいとか、応援したいとか、気に入ったミュージシャンは全力で背中を押していました。そんな心意気が吉田にあって、そういったものが、この店に関わる人に受け継がれていることは確かです」

トランペットとコーヒーカップをモチーフにした
入り口上部に飾られた店のサイン。カッコいい!

 音楽愛に満ちた吉田イズムは、ここを訪れた客、そして多くのミュージシャンたちに注入され、今でも語り継がれている。それらを未来につなげるために22(令和4)年4月10日、ちぐさは一旦店を閉めた。みなとみらいの仮店舗で営業を続け、来年の3月には、今と同じ場所に「ジャズミュージアム・ちぐさ」の建設が予定されている。ガラス張りのモダンな外観は、吉田さんの想(おも)いと矛盾しない。「あういうパースが出て、賛否評論、さまざまな意見が出ました。でも、今ではみんなが理解しています。吉田がジャズ喫茶を開いた当時、『(周りは)なんだこの音楽は?』って思われていたはず。でもあえて彼はジャズ喫茶を開き、広めていきました」

3代目ちぐさは、野毛中通り沿いにあり、周辺は猥雑(わいざつ)で混沌としているが、温かさも感じさせるエリア。飲兵衛(のんべえ)心をくすぐる、非常に「良い」環境の中に佇(たたず)む

 つまり、極めて斬新なことを吉田さんはやったのである。歴史を重ねるごとに、一つの形となって日本に根付いていった。「ちぐさは、喫茶店文化を大切にすると同時に、ジャズってもっと開かれたものであるべきだというのが、(一般社団法人ジャズ喫茶ちぐさ)理事の意見です。だから、若い人も、ライブをできるようにするとか、いろいろな使い方を考えています。魅力的な『ニューちぐさ』が誕生するはずです」

 ジャズというツールを使った、新しい歴史がここから始まっていくのだ。

3代目ジャズ喫茶ちぐさは、建物の老朽化に伴い、惜
しまれながらも2022年4月10日に閉店した。来年の3
月には現在の場所に博物館とライブハウスが融合した
「ジャズミュージアム・ちぐさ」として再出発する。 

文・今村博幸 撮影・JUN

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