10円ゲームが紡ぐ縁や運命、ドラマに一喜一憂

 どちらかというと自分を人見知りと評する岸さんは、「譲ってもらえませんか?」の一言が発せずに、店の前を何度も行ったり来たりした後、意を決して店に入って行った。結果的には、すんなりといい返事が返ってくる。「持っていけるならいいよ」と主人は言ったのである。自転車の後ろに積んで、家に持ち帰る時のワクワク感を岸さんは今でもはっきりと覚えている。

 多くの機種が博物館に並ぶが、入手した経緯はそれぞれに思い出やドラマが付随しているのも素敵だ。入手に時間がかかったものもある。グランプリと世界一周だ。「時々顔を出さないと忘れられてしまうので、年に1、2回店主に会いに行くんですよ。4年半ぐらい通って、やっと手に入れました。『今は使っているので、店を閉めたらあげるよ』って

10円を入れると銀の玉が一つだけ出てくる。岸さんがTIme80を改造して作った一発台。子供はいつの時代も遊びから人生を学ぶ

 10円ゲームの王道と岸さんが言ってはばからないのが、新幹線ゲームである。初代とⅡとⅤがあるが、岸さんはⅡとⅤを所有している。Ⅱは近所の仕立て屋の軒先に置かれていたものを譲り受けた。岸さんにとっても思い出の機種で、貴重な一台でもある。魅力は、なんと言ってもゲーム自体の面白さだと岸さんはうなずく。そして、盤面に描かれた、新幹線と各地の風景は、当時の子供や大人にとっての憧れであり、まさに「夢の超特急」だったのである。「今は子供から大人まで普通に新幹線に乗る時代です。でも、その頃って、特別な体験だったと思うんですよ。実際に私が初めて乗ったのは、中学生の修学旅行でした」

新幹線ゲームの景品は、プラスチック製の切符だったが、今
は、それらもこの世から消え、岸さんのところでは、手作り
の札が景品。これを駄菓子と交換できるようになっている 

 盤面に描かれた図柄も大きな魅力の一つだ。昭和の頃に憧れた乗り物や漫画のキャラクター、宇宙やカーレースなどがモチーフになっていて、どれも子供たちの心を激しく揺さぶった。4台あったうちの3台は廃棄され、1台だけ残っていた。理由は聞かなかったが、「やっぱり人気機種だったので捨てられなかったんだと思います」と岸さんは想像する。手放す人の心にも、何かしらの思い入れがあるのだ。「10円ゲームを集めるのは、それにまつわる思い出を集めることでもある」と自著「日本懐かし10円ゲーム大全」(辰巳出版)にも書いている。「コレクションしていると同じ種類のがダブっていくんですよ。倉庫の中にもそんな筐体(きょうたい)と人の想(おも)いがいっぱいです」

この博物館の特徴の一つは、見て楽しくさ
らに
遊べること。両替機は必須のマシン。
最近見かけなくなったとしみじみと思う 

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