童心に帰れる文房具のセレクトショップ

 そんなロングセラーから形を変えた新しいモノがあるのも面白い。例えば、無骨ではあるが、みんなが使っていたツバメノートも、下敷きになったり、天糊(てんのり)メモへと姿を変えている。可愛いライオンの絵が印象的な「よいこのおどうぐばこ」も大きめのA4サイズが登場。幼稚園児には少し大きすぎるかもしれない、などと現実的なことを考えながら店内を歩く。随所にある、見たことのある文房具は昔の記憶を蘇えらせる。鉛筆を削ったときの木の香りや、女の子たちは、可愛い消しゴムの品評会が始まっていたりする。新しい筆箱を買ってもらった時には、少し誇らしげに机の上に置いたものだ。

ちびた鉛筆を使いやすく。名前は補助軸。写真奥は、真ちゅう製の鉛筆キャップ。これがないと筆箱の中が汚れた

 あの頃、学校は楽しかったが、勉強は苦手だった子供は少なからずいただろう。授業中、木製の椅子に座って授業を聞いているのは苦痛の方が多かった。早く給食の時間にならないか、休み時間にはドッジボールで昨日の雪辱を果たそうなどと、そんなことばかりを考えていた。今や、文章を書くことを生業としている筆者も、400字詰めの原稿用紙のマス目を埋めるのは、果てしなく続く長い道のりに思えた。先生が黒板に書く文字や説明をノートに取るのにも四苦八苦した。友達とふざけていたり、授業を聞いていないとバレた瞬間にチョークが飛んできたこともあった。店には小型の黒板とチョークなどもそろっている。「文房具屋ですから、黒板とかチョークを置いてないとおかしいと思って」と山田さんはほほえむ。

厚紙でできた電車のおもちゃを手にすることものキラキラ光る目を見よ!

 改めて眺めると、子供の頃のことを思い出すのはもちろん、自分が生きてきた歳月の一部を確実に占めていたのが文房具だった。パソコンが主流の現代においても、絶対に無くしてはいけない貴重な品(無くなることはまずないが)であることを思い知らされる。

(上)トンボ鉛筆は、まさにロングセラー。まっ
 さらな鉛筆は「さあ!勉強」と思わせるが、削り
  終わると、うだうだしてしまうことはよくあった。
  (下)原稿用紙の老舗・満寿屋オリジナルノート  

 店には家族連れがたくさん訪れる。親は懐かしさから、「お母さん、昔これ使ってたのよ」などと言う会話が交わされ、小さな絆も少しずつ深くなっていく。文房具は、コミュニケーションの道具であったのだ。棚に駄菓子が並ぶのもここの特徴だ。山田さんのちょっとした企みでもある。

図書館の本の背表紙の内側に貼ってあった貸し出しカード用のポケット。使い方いろいろ。あなた次第だ

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