新宿 北村写真機店(東京・新宿)
retroism〜article119〜
人から人へ。カメラは歳月を超えて受け継がれていく。一台のカメラには所有者がいて、彼または彼女が使った事実は、(人知れずだったとしても)歴史の小さな1㌻として刻まれていく。もし所有者が手放したとしても、かつての愛機として、心の片隅にとどまることになるだろう。小さな機械から限りないストーリーが広がっていく場合だってある。カメラは、ただの道具ではない。今も昔もエスプリを全身に秘めていた。 4階の中古カメラフロア。間接照明を使ったり、ガラスケースも特注品だ。種類も数も充実している
混沌(こんとん)とした新宿の雑踏の一画。小奇麗でカチッとした外観の「新宿 木村写真機店」がオープンしたのは2020(令和2)年7月。思わず吸い込まれてしまうようなエントランスだ。ヴィンテージサロンの責任者・丸山豊さんが説明する。「日本は、世界でも有数の生産台数を誇っています。そんな日本にあらゆる国のお客様が集まるような、世界一のストアを造りたいというのが最初の壮大なコンセプトでした」
1階の入り口を抜けてすぐのポップアップコーナー
には、使い捨てカメラが隙間なく並んでいた。そ
の後ろには現行のフィルムもズラリ。憎い演出だ
1934(昭和9)年に「キタムラ写真機店」として創業してから、会長である北村正志さんが言うように「カメラ愛好者の社交場的な存在」であり続けた。歴史ある会社の縛りがある中で、「それらを一度ゼロにして、店のデザインや商品レイアウトも含め、こだわり抜いて造ったのがこの店なんです」。さらに丸山さんは続ける。「カメラと写真という文化を、未来永劫(えいごう)継承していける場所にしたいとも考えています」。カメラを通した憩いの場、サロン的な店づくりは、そう多くはないだろう。「ご来店いただいたお客様に、店員と、またはお客様同士で語らいながら、本当に欲しいものが見つかる場にしたいのです。だから極力、無いものは無いないぐらいの品ぞろえを目指しています。お客様を飽きさせない、今まで誰も見たことのない楽しい場所にしたいと考えています」
カメラ付属のモノでなく個性的な「おしゃれストラップ」に付け替えて楽しむファンも多い