今も生き続けるレコードはアートであり文化遺産

   「僕が子どもの頃、レンタルレコード屋がたくさんありました。でも、それによって、レコードを自分でも買って聴きたいという人が増えた。ユーチューブという新しいメディアの出現によって、同じことが起こっていると思うんです」。つまり、ユーチューブや無料の動画などで、初めて聴いた音楽をきちんと聴きたいと思う新たなリスナーが現れる。彼らはまず、ダウンロードなどで曲を買うが、それでは飽き足らなくなり、自分でモノを所有して聴こうと思うと、今度はいい音を求めるようになる。今の世の中で最もいい音はコンサートホールやライブ会場にある。次にいい音はレコードだ。

「レコードの寿命〜」のダサいキャッチコピーが郷愁を誘う

 ハイレゾルーションの音も決して悪くない。その分野での技術の進歩は目覚ましいのだ。ただ、デジタルな音は、どこまでいっても1か0の音に過ぎない。しかし、歌や楽器の演奏は、もっと生々しい。ミュージシャンたちが歌う歌は、また彼らが演奏する楽器が奏でる音は、1か0ではなく、1と1.1または1.2の間にある何かでできていて、そのゼロコンマいくつが演奏家の、または歌い手の「味」になる。再現できるのは、レコード以外にない。

  起こっているブーム(まだまだ小さいかもしれないが)の背景として、横山さんが面白い話を聞かせてくれた。「今の20代の子たちは、アナログ最後の世代と言われています。それは、僕ら親の世代(40〜50代)がDJブームで育ったことに関係してます。80年代から90年代の初めぐらいです。だから、多くの人がターンテーブルを持っていた。つまり20代の子たちの家には、高い確率でレコードプレーヤーがあったんですよね」

 この「今の20代の家には、レコードプレーヤーがあった説」は、かなり説得力がある。いずれにしても、若者たちにとってレコードはそれほど突飛なメディアではないと考えるのが自然だろう。ユーチューブに関して、横山さんが話してくれた現象もまた喜ばしいことの一つだろう。日本のミュージシャンの楽曲がユーチューブのおかげで、外国で気軽に聴かれるようになったと言うのだ。

「僕らが洋楽を聴いていたように、日本の音楽がユーチューブによって広がっています。山下達郎や大瀧詠一などは、外国人にも人気があります。そして彼らは優れた日本の楽曲をいい音で聴くためにレコードを求める。僕の店でも外国人が大貫妙子なんかを探して買っていきますよ。なんだかとってもうれしくなりますよね」

 古いレコードは紛れもなく文化遺産だ。そして今も着実に生き続けているのである。 

文・今村博幸 撮影・柳田隆司、岡本央

※新型コロナウイルス感染拡大で、対面取材を自粛しております。当面、特別編や路地裏を歩くを配信する予定です。ご了承ください。

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