今も生き続けるレコードはアートであり文化遺産

 店の取材の前半は、サウンドトラックがたくさんあるという話から始まり、インディ・ジョーンズのサントラ盤などを見ながら、「懐かしいですね」というやりとりから始まった。昔見た映画を思い出すのと同時に、バックに流れていた曲のレコードがびっしりと詰まっている。正直なところ、「音楽から映画を懐かしむ店」だろうぐらいに考えていた。ところがである。取材の後半から、それだけではない店の魅力の話へと向かっていく。突然、店主の宮越篤さんが、「ところで」と言い、ある棚を見せはじめたのだ。まるで、隠し球を最後に残していたように。「実はウチには売りの棚があるんです」と一瞬他と同じに見える棚を指さした。そこから、件(くだん)の絵柄で分類する棚の話が始まった。ただのサントラ盤を売る店ではなかったのだ。筆者は、心の中で叫んでいた。「それを最初に言ってくれー」と。いずれにしても、レコードジャケットの魅力を強烈に再確認できる取材となった。

思わず「懐かしい!」と叫んでしまうレコードを充実のラインナップで揃えるのが「HMVrecord shop 渋谷」だ

  骨董(こっとう)品としての価値をレコードに見いだしている人が増えているのは間違いなさそうだ。ヴィンテージ的価値が見直されていると力説してくれたのが「HMVrecord shop 渋谷」の店長・竹野智博さんだ。「『モノ』として押さえておきたい人が確実にいるんです。少し前までは、オリジナル盤が欲しい人でも、聴ければいいという感じでした。でも最近では、(レコード)盤自体がきれいなのは当たり前、ジャケットも傷みが少ないもの、外側にビニールがついていないと嫌だという人すら出てきてますよ」

 昔のレコードショップは、単にモノを売り買いする場所ではなかったとも竹野さんは言う。「レコード屋の頑固オヤジには、たくさん教わることがあったと思います」。確かに高校生や大学生だった頃、好きなレコードを買いに行くと、店のオヤジから自分が知らないミュージシャンを紹介されることも少なくなかった。「今オススメの面白いミュージシャンやアルバムは?」と尋ねれば、難しい顔でスラスラと注目アルバムを教えてくれ、自分の中に構築された音楽のライブラリーは大きく広がっていった。己の文化水準を上げる場所。それがレコード店だったのである。

 頑固オヤジと呼ぶのは失礼だが、教わるという意味では横浜にある「中古レコードのタチバナ」の店主・横山功さんも、そんな「レコード店のオヤジ」の一人である。この店、憎らしいくらいの個性派だ。しかも、世間が華やかなりし頃を思わせる懐かしさが残ってもいる。ミラーボールが回るレコードショップでは、オネエが登場するイベントも楽しい。ミラーボールを見ることすら少なくなった今、かえって新鮮に思えてしまう。「何しろ古いスタイルのレコード屋なんで」と横山さんが苦笑いした。古いレコードがちょっとしたブームになっていることについて、横山さんの分析は興味深い。かつて隆盛を極めたレンタルレコード店や著作権の無法地帯になりかねないユーチューブとレコード会社との狭間で少なからず生じる負の現象は、人々に音楽を身近にさせるきっかけになったというのだ。

スポンサーリンク

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする