舌と心が癒される昭和薫る故郷みたいな甘味処

甘味 かどや(東京・西新井)

retroism〜article54〜

 お世辞にもきれいとは言えない外観。特に、「かどや」と大きく書かれた入り口上部は、ところどころ塗装が剥がれたままになっている。ただ、店名を染め抜いたのれんや今川焼きの幟(のぼり)は清潔そのもの。そのアンバランスがかえって目をひく。ついでに言うと、店主・中田実さんの着ている白衣は洗濯したてだし、店内の古いテーブルや椅子も磨き上げられていて清潔そのものである。

店を直す気はないと中田さんは言う。「古いものがどんどんなくなっている今、こんな店があってもいいんじゃないですか?」

 この外観はある意味、店のレゾンデートル(存在意義)だ。中田さんは言う。「店が昔のままだから、お年寄りも来店しやすいと思います。西新井大師にお参りした後には、うちへ寄ろうって思ってくれてる人もいるようで、実際に来てみると昔のまま。だから、すんなり入ってくれるんじゃないかな」。さらに、客が口をそろえていうせりふがあると、少し弱った表情で中田さんが続ける。「直したら入りづらくなるって、みんなに言われちゃうんです。そんなことを言いながら寄ってくれて、今川焼き一個でお茶を2杯も3杯も飲んで長居する人もいますよ」

「40年以上使っているイスやテーブルは、今はほとんど売ってないと思います。でも、まだまだきれいでしょう?」と中田さん

 創業60年の「甘味 かどや」の凄さは、そんな外観とは裏腹に、供される食べ物が、ずぬけてうまいところだ。全てが純粋かつ本物、洗練といってもいい。極上の味に出合えてしまう店なのである。

今川焼き150円。熱々もうまいが、持ち帰る人もわりと多い。空腹時にあると助かるおやつだ

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