より良い未来へ 負の財産から学ぶ人々の暮らし

 「終戦から1年経っても、広範囲にわたって焼け野原だったことがわかります。バラックの新宿駅や闇市の様子も鮮明に残っています。環境は、戦中よりも戦後の方がむしろ過酷でした。家も多くがバラックでした」。衛生状態も悪く、発生したノミやシラミを殺す農薬のDDTが噴霧された。人体に直接浴びせるという極めて乱暴な消毒方法だった。

 戦争で亡くなった夫の遺族の生活もやはり厳しかった。戦没者の妻たちの苦労は筆舌に尽しがたいものだった。「幼い子どもを抱えて、彼女たちの就ける職業は非常に限られていました。女性の地位がまだまだ低い時代、お金を得る手段は裁縫などの内職が主でした」。足踏み式のミシンの前に座る粗末な着物を着た人形が、苦しい時をありありと浮かび上がらせる。「一方で、少しでも給料の高い力仕事に従事する女性もいました」。本当に女性は強いと、頭が下がる思いだ。

戦場へ向かう兵士に向けた、大きな日の丸に書かれた寄せ書き。著名人の名前も見える

 さらに、戦後行われた青空教室の模型や写真、墨塗りされたものとされていない教科書を並べて見せるなど、戦後の混乱や困難を浮き彫りにする展示も同館の特徴だ。全体を通して、現物の凄みに説得力がある昭和館。「この道具」は、どこの誰が、いつどんな気持ちで使っていた、といった細部を見せながら、全体像に迫っていく手法は、見る者を引き込んでいく。人間の愚行を深く考えさせられるのである。

昭和10年ごろの家庭の道具。家事のほとんどは手作業で行われていた

 明るい未来に至るまでには、暗くて長い期間があり、その経験があったからこそ今の生活がある。そんなことを、感謝の気持ちとともに、改めて考えさせ実感せざるを得ない。全ての日本人が行くべき資料館と断言したい。

しょうわかん
東京都千代田区九段南1-6-1 
📞03-3222-2577
開館時間:午前10時〜午後5時半(入館は5時まで)
休館日:月曜(祝日の場合は開館、翌日休館)
文・今村博幸 撮影・柳田隆司

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